9月の消費者物価指数(生鮮食品を除いた総合指数)が前年比で3.0%上昇しました。
「31年1ヶ月ぶりの歴史的上昇…」などとマスコミは騒ぎ立てていますが、当該指数は生鮮食品を除いた総合指数ですので、生鮮食品以外の食料価格やエネルギー価格等が含まれています。
円安等の影響もあって、これだけエネルギー価格が上昇しているのですから当然といえば当然です。
それに、上記グラフのとおり消費者物価(総合)の内訳を見ますと、財やサービスの寄与度は極めて小さい。
要するに、コストプッシュ・インフレとデフレが共存しているということです。
賃金の上昇を伴っていない物価上昇である以上、デマンドプル・インフレであるわけがない。
また、グラフをみると歴然ですが、「消費者物価が上昇」と言っても、世界的なコストプッシュ・インフレのなかで日本の消費者物価はまだ低いほうです。
とくに日本の特徴は他の先進国とは異なり、企業物価と消費者物価に差があることです。
企業物価の高さは、いわば企業の生産性の低さを表していますので、設備投資など生産性向上のための投資が求められるところです。
だからこそ、企業投資を妨げる「利上げ政策」などあり得ないことだと思います。
因みに、消費者物価上昇を理由に「財政の引き締め」を主張する人々がおられますが、財政支出の拡大によりもたらされるインフレは、コストプッシュ・インフレではなく、デマンドプル・インフレです。
それに断っておきますが、日本はもちろん世界の歴史をみても、自国通貨建てで国債を発行できる政府が財政支出を拡大しすぎてデマンドプル・インフレを抑制できなくなった事例などありません。
インフレ率の上昇で苦しむケースは大抵の場合、戦争や災害など有事を起因として起きるコストプッシュ・インフレです。
とはいえ、コストプッシュ・インフレだからといって、緊縮財政によって需要を縮小させ、強引に供給水準に一致させるようなことは絶対にしてはならない。
そのようなことをすれば、たしかにインフレ率は低下するかもしれませんが、縮小した供給の水準に合わせて需要が縮小するわけですから、その分、国民が貧しくなってしまいます。
インフレを抑制するために国民生活を犠牲にするような経済政策(政府支出の抑制や増税)などあってはなりません。
コストプッシュ・インフレの要因は供給制約にあるわけですから、その対策は供給力を強化して、供給の制約を緩和する政策であるべきです。
よく言われているように、出口の見えない円安で石油価格が上昇し続けているのであれば、省エネルギーのための設備投資や技術開発、より長期的には代替エネルギー(油田開発やクリーンエネルギー)の開発も必要でしょう。
輸入食料が高騰し続けるようであれば、国内の食料生産の増強が必要となります。
むろん、徹底的な合理化によって効率性を高め生産性を向上させることで供給制約を緩和するのも有力な対策の一つです。
そして抜本的に生産性を向上させるためには、交通、通信、電力などのインフラの整備、研究開発、人材育成など各種の投資が必要となります。
しかしこれらを実現するには、長期的で計画的かつ大規模な公共投資、あるいは民間投資に対する政府による継続的な助成や支援が求められますので、詰まるところコストプッシュ・インフレ対策もまた積極財政が必要となるわけです。
以上のような理由から、コストプッシュ・インフレを理由にした緊縮財政論を受け入れるわけにはいきません。