市バスは収益事業ではない!

市バスは収益事業ではない!

私たち日本国民には、学問の自由、表現の自由、思想・良心の自由、職業選択の自由、政治参加への自由、信教の自由、報道の自由などなど、より健全な社会を形成するために必要となる様々な「自由」が憲法において保証されています。

私は、それら自由のほかに「移動(モビリティ)の自由」というものが保証されるべきであると考えます。

その国の国民が、国内(地域)において「速やか」かつ「ローコスト」に、即ち「自由に移動すること」ができない国は民主主義国、あるいは先進国とは言えません。

そうした「移動の自由」の根本を支えているのが、道路、鉄道、橋梁、船舶、飛行機、あるいは公共交通機関など、様々な交通インフラです。

即ち、交通インフラは我が国の社会経済を支える下部構造です。

それは生きていくための土台、礎石のようなもので、交通インフラが構築されることにより生活や事業の利便性は高まるのはもちろんのこと、人や物の動きが活性化されることで域内循環を可能にします。

ご承知のとおり、循環型社会、持続可能な社会が叫ばれている現代、交通インフラの重要性は益々高まっているわけです。

ところが昨今、多くの地方自治体において、公共交通の在り方が問われています。

むろん悪い意味で。

例えば、自治体が運営するバス事業や鉄道事業の採算性の悪化から、事業そのものの存続が危ぶまれています。

川崎市のような都市部の自治体はまだマシなほうなのですが、ローカル鉄道を抱える地方都市はかなり深刻な状態です。

因みに、ことし2月、国土交通省は『鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会』を立ち上げました。

その検討会が7月に「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」なるものを発表したのですが、その提言内容は実に酷いものでした。

要約すると…

①沿線の地方自治体と鉄道事業者が協働して自分たちでどうするか考えろ!

②鉄道を廃止してバスに転換するも良し、しないのも良し、その選択はどうぞご自由に!

…というものでした。

要するに「鉄道ネットワークが寸断・分断されても知ったことではない」ということです。

言わずもがな、交通インフラはネットワーク化されているところに利便性という大きな価値があります。

仮に全国の赤字路線の鉄道がすべて廃止されてしまうと、明治以来、先人たちが築き上げた全国の鉄道ネットワークの大部分が失われ、全国をつなぐ主要路線の多くは歯抜け状態となります。

これでは益々もって地方の過疎化が進むことになってしまいます。

かつて総務省が行ったアンケート調査があるのですが、東京の人が仮に地方に移住する場合「何を重視しますか?」と質問すると、回答の2〜3位に「交通の利便性」が挙げられています。

要するに、多くの人は交通不便地域になど移住したくないわけです。

逆に、地方から東京に移住した人にアンケート調査をすると、理由の1番は「交通の利便性が高いから…」となります。

多くの人々が「移動の自由」を求めていることが、よく理解できます。

さて、川崎市はもちろん、現在の我が国が抱えている公共交通の最大の問題点は、交通インフラの維持に「黒字」を求めているという一点につきます。

例えば、川崎市交通局が運営しているバス路線は全市で29路線あるのですが、全ての路線が赤字です。

額にして約13億円。

そこで本市の交通局は、経営健全化の名のもとに停留所を減らしたり、運行時間を減らしたりするなどして路線経営の見直しを進めています。

先日も市バスの「時刻表」改定が行われましたが、ある路線では始発の時間が遅くなってしまい、出社時間に間に合わなくなってしまった通勤者がでるなどの悪影響がでています。

今後とも、赤字を理由に市バスの運行サービスは益々もっと縮小していくことが予想されます。

巷には「いっそのこと、市バスを民営化すべきだ…」などという意見もありますが、〇〇も休み休み言ってほしい。

もしも市バスが民営化されれば、徹底した経営黒字化が進められるので路線数はさらに減り、多くの市民の移動手段としての足が奪われることになります。

そもそも民間のバス会社だって、独立採算で黒字をあげている会社などほとんどありません。

多くの民間バス会社は、同グループの例えば百貨店事業、不動産事業、建設事業など付帯事業の黒字によってバス事業の赤字をカバーしています。

ゆえに市バス事業も事業体単体としての収支ではなく、病院事業、水道事業、下水道事業など、他の企業会計と合わせた企業会計全体の収支なかでとらえ、その赤字分は堂々と公費で負担すべきです。

因みに、誤解をされている方々が大勢おられますが、市バス事業は収益事業ではありません。

市バス事業は歴然とした「公益事業」です。

全ての市バスは、いわば「福祉バス」なのです。

これを公費、国費で支えるのは当たり前の話で、ここに経営(利益追求)の概念を持ち込むこと自体が大きな間違いです。

くりかえしますが、交通インフラという社会経済の下部構造を整備・運営するにあたり、黒字収支を求めることがいかに愚かなことであるのかを私たちは知るべきです。

むろん市バス事業のみならず、公営企業会計が提供するサービスの悉くは公的サービスですので、公的支出を前提に整備・運営されて然るべきものなのです。

なお、ここで言う「公的支出」とは、通貨発行権を有する政府による財政負担(地方交付税交付金等)です。

このように言うと「でもぅ、これ以上の国の借金は〜」という人々が未だ絶えませんが、結局、在りもしない「国の借金問題」が根底にありネックとなっています。

いつも言うように、デフレになるほどの生産能力をもち、自国通貨建てで国債を発行している日本政府に財政破綻など起こりようがない事実をぜひ多くの国民に知ってもらいたい。