憂うべきは、PB黒字化目標の堅持

憂うべきは、PB黒字化目標の堅持

今の日本を衰退に導いている最大の政策要因、即ち諸悪の根源は「プライマリーバランスの黒字化目標」です。

プライマリーバランス(以下、PB)とは、基礎的財政収支のことで、政府の歳入総額から公債費を除いた金額と、歳出総額から国債償還費と利払い費を除いた金額とをバランスさせねばならないという財政思想です。

要するに、政府の歳出(国債償還費を除く)を税収の範囲内に収めよ、というものです。

現在、PBは赤字状態ですが、これを政府は2025年までに黒字化しようとしています。

それの何がいけないの?

…と疑問に思われる方もおられましょう。

例えば家計簿的にも赤字は悪ですので「だったら政府の赤字だってダメでしょ」というお考えに陥るのは致し方のないことと思います。

しかしながら、家計簿と政府財政は根本的に異なります。

何が違うのかと言えば、政府には通貨発行権がありますが、家計にはそれがありません。

つまり政府は貨幣の発行者であるのに対し、家計は貨幣の利用者にすぎない。

これは決定的な違いです。

そして、通貨発行権を有する政府には国民経済に貨幣を供給し続ける義務と役割があります。

この役割を放棄されて困るのは家計はもちろんのこと国民です。

一定の貨幣が供給されないと経済はデフレ化し成長しなくなり、国民の所得は増えず総体的に貧困化することになります。

現に今、そうなっています。

世界を見渡すと、なんと我が日本だけがこの20年以上ものあいだ国民経済(GDP)が成長していないのです。

実に恥ずかしいことです。

では、なぜ日本はデフレ経済から脱却できないのか?

その最大要因がPB黒字化目標なのでございます。

PB黒字化に基づく歳出削減・収支均衡政策とは、新規に国債を発行してはいけない、というものです。

新規に「国債」を発行してはいけない、ということはイコール、新規に「貨幣」を発行してはいけない、ということになります。

新たに貨幣が発行できなかったら、経済はデフレになるに決まっています。

それに貨幣の発行量に限界があるとなれば需要は拡大しません。

むろん需要が拡大しなければ生産性も向上しません。

経済成長とは即ち生産性の向上そのものですので、まこと恐ろしいことに我が国の経済成長は実はPB黒字化目標によって蓋をされていることになります。

経済(GDP)は成長しないけれど、高齢化等にともなって社会保障費などの支出は増えますので、政府はその必要性から国債を発行しています。

GDPが増えず、国債発行が増えれ続ければ、当然のことながら政府の債務残高対GDP比は拡大(悪化)することになります。

ところが、まことに愚かなことに、政府はそれを理由に「PB黒字化を達成しよう!」とやるわけです。

そうすると国債(貨幣)が発行されずにまた経済が成長しなくなります。

でも社会保障費が増えるからまた国債を発行して、またまた政府債務残高対GDP比が拡大する。

そうするとまた「PBを黒字にしなければ…」となって愚かなるスパイラルに陥っているのが今の日本なのでございます。

ほとんど救い難い。

PB黒字化目標があるかぎり、我が国は経済成長できません。

といって、PB黒字化目標ではなく、社会保障費の伸びの方を問題視するのは間違っています。

なぜなら社会保障費もまた医療や介護という需要そのものであり、あるいは年金を通じてそのおカネが消費にまわることになればそれもまた立派なGPDの需要項目となります。

つまり高齢化にともなう社会保障費の伸びが、デフレによって成長しない日本経済をむしろ下支えしてきたといえます。

ゆえに憂うべきは社会保障費の伸びではなく、菅内閣がPB黒字化目標を堅持していることです。