10月7日、ウクライナのレズニコフ国防相がロシア兵に攻撃停止を呼びかける動画を公開しました。
レズニコフ国防相はロシア語で「あなたたちはだまされ裏切られた。誰か(プーチン)の空想や偽りの目的のために血を流すことになった」と語りかけ、「戦闘を直ちに拒否する全ての人々の命の安全、正義を保証する」と訴えました。
むろん、反転攻勢を強めていることからの自信もあるのでしょうけど、ロシア国内では部分動員令への反発が拡がっていることなどもあって、プーチン大統領の足元を見透かしての動画配信かと推察します。
ロシア軍を苦戦に追い込んでいるのは、むろん欧米による武器支援と経済制裁というウクライナ支援です。
とりわけ、米国が提供した高機動ロケットシステム「ハイマース」はウクライナの反撃能力を大幅に強化したようです。
なお、他のNATO諸国も武器や人道支援を提供しており、エネルギー禁輸、金融制裁、輸出規制などの欧米による制裁がそれなりの規模で実施されロシア経済を締め上げているとのことです。
ここにきて、さすがのプーチン大統領もロシア軍の劣勢を認めているらしいのですが、だからといって直ぐにでも戦争を終結する気などさらさらないでしょう。
であるからこそ「核を使ってでも勝つ…」と言っているわけです。
それにプーチン大統領には、「核による威嚇」のほか、「冬を待つ」という歴史的戦術を採る手段がまだ残っています。
かつてナポレオン軍をモスクワ近郊の雪に閉じ込め、ナチスの兵士をスターリングラード近郊で凍死させたように、プーチン大統領はドイツやフランスの国民を家の中で震え上がらせることを考えているにちがいない。
よく言われているように欧米はロシアに対して広範なエネルギー禁輸措置を採っており、EUは今年の年末までにロシアからの石油輸入を段階的に減らしていくことにコミットしていますが、天然ガスの輸入規制にはより大きな課題があります。
ドイツを含む多くの国にとって、短期的にはロシアに代わる天然ガスの代替調達先はほとんどない。
プーチンロシアは欧州へのガス供給を大幅に減らすことによって、エネルギー供給を兵器化しているわけです。
それにプーチン大統領は、ロシアの石油やガスをより高い価格で購入する国がある以上、欧州からの歳入がなくなっても一向に構わないと考えているようです。
さらに言えば、最終的にエネルギーからの収益を失うことになっても、そのコストを敢然と引き受ける覚悟ができているのでしょう。
この冬、家の中で凍えることになるであろうドイツ国民やフランス国民の政府への不満は高まるにちがいない。
去る6月のフランス議会選挙でも、経済情勢(特にインフレ)に対する有権者の不満から、マリーヌ・ルペン率いる国民連合(旧:国民戦線)が議席を11倍に伸ばすという大躍進をしています。
去る7月にはイタリアのドラギ政権が崩壊しており、秋には親ロシアの首相が復活する可能性があります。
これもイタリア国民の経済的不満が背景にあると考えられています。
おそらくプーチン大統領の狙いは、エネルギー不足、インフレ(物価高)、経済困難が作り出す圧力によって欧米の対ロシア包囲網を分断することにあるのではないでしょうか。
欧米の後ろ盾を失ったウクライナであれば、充分に勝算が見えます。
ひょっとすると、プーチン大統領は意外にも最終的な勝利を確信しているのかもしれない。