我が国は1998年以降、緊縮財政(財政収支の縮小均衡)という政府の愚策から、およそ四半世紀にわたりデフレに苦しんできました。
そのデフレを払拭できないまま、こんどはコストプッシュ型インフレに苦しんでいるのは実に皮肉なことです。
景気上昇局面でみられる、いわゆるデマンド型インフレの場合であれば、その対処は極めてシンプルなもので、それこそ財政と金融を同時に引き締めればいいだけの話です。
しかしながら、もっか進行中のコストプッシュ型インフレの場合、その対策は極めて難しい舵取りが迫られます。
とくに1970年代のコストプッシュ型インフレと比べて今回のそれはさらに問題が複雑であり、なにせコストプッシュ型インフレをもたらしている要因が多岐にわたっています。
例えばコロナ明けの需要反動、ロシアによるウクライナ侵攻、米中貿易戦争、少子高齢化による生産年齢人口比率の低下、株主資本主義による企業の投資不足、緊縮財政によるインフラの脆弱化、円安によるエネルギー価格の高騰などなど様々です。
コストプッシュ型インフレへの対処は、かつて下村治が言っていたように、緊縮財政ではなく積極財政による生産能力の強化がベースとなります。
ただし、こうした積極財政はインフラや生産設備などの供給能力が完成するまでの間は、投資需要を拡大することになりますので、その間はインフレ圧力となってしまうリスクは否めません。
しかしそれは、四半世紀にわたってデフレを放置し供給能力を毀損してきたツケとしか言いようがない。
デフレ期に財政支出を拡大してインフラ等の整備をやっておけばよかっただけの話ですし、財政支出が拡大されていればデフレは払拭されて企業投資も高まり供給能力が毀損されることもなかったでしょう。
もっとも、これだけ株主資本主義が進んでしまうと、いかにデフレが払拭され景気がよくなったとしても、はたして企業が投資拡大に踏み切ったかどうかは怪しいかもしれませんが。
それにつけても腹立たしいのは、岸田内閣の物価対策の遅さです。
なにせ物価対策に本腰を入れはじめたのは参議院選挙直前(今年6月)のことです。
現在の物価上昇は円安やロシアによるウクライナ侵攻からはじまったのではありません。
我が国では昨年11月から企業物価指数が上昇しはじめていました。
企業物価指数とは、会社、工場、商店など企業相互間で取引される財の価格の変動を示すもので、当該統計で対象となる「財」には農林水産物や工業製品だけでなく、原油や鉄鉱石などの原材料、あるいは施盤などのような工作機械も含まれています。
昨年11月の企業物価指数は前年同月比9.2%で41年ぶりの高水準を記録しているのでございます。
なおそのとき既に、他の先進国ではコロナ明けの反動で消費者物価が上昇しはじめていました。
それなのに、岸田内閣が物価・賃金・生活総合対策本部を立ち上げたのは6月21日です。
それを咎めない野党も野党です。
岸田内閣というより、日本の政治がいかに呑気なものであるかがよくわかります。