ミサイル防衛の考え方

ミサイル防衛の考え方

きのう(4日)のあさ、北朝鮮から弾道ミサイルが発射されました。

防衛省によると、ミサイルは日本海から青森県の上空1000キロの高さを通過し、そのまま太平洋(日本のEEZ=排他的経済水域の外側)に落下したとのことです。

その飛距離は4600キロに及んで過去最長となり、米軍基地のあるグアムが射程距離に入っていることが証明された格好となりました。

当該ミサイルは中距離弾道ミサイル(IRBM)級以上の射程を有するミサイルと推定されており、これまで4回発射されている「火星12型」と同型のものらしい。

日本国内では5年ぶりに警報音(Jアラート)が鳴り響きましたが、システムがうまく機能せず混乱が生じました。

最初に警報が出されたのは北海道と東京都で、青森県に出されたのは既にミサイルが上空を通過した後でした。

さらには東京といっても、警報が出されたのは神津島などの島嶼部(9町村)や都心の一部であり、それらは極めて飛来の危険性の低い地域でした。

東京に出すのであれば、よりミサイル軌道にちかい秋田や岩手に出されないのはおかしい。

Jアラートを所管しているのは内閣官房ですが、内閣官房としてはこれらが人為的なミスなのか、それともシステム上のエラーなのかさえ判別できないらしく、松野官房長官は記者会見で「Jアラート警報の対象地域が変遷した原因、あるいはどうして東京の一部にだけ発令されたのかについて調査中である」と述べるにとどめています。

大丈夫か、日本。

怖いのは、北朝鮮の行動が今後さらにエスカレートすることです。

もしかすると次は7度目となる核実験に踏み切る可能性もあるのでは、と指摘されています。

さて、日本の上空(宇宙空間)を飛び越えたとはいえ、北朝鮮から日本に向けてミサイルが発射されたわけなのだから、日本は「どうしてそれを迎撃しないのか…」という疑問をお持ちの方もおられると思います。

敵ミサイルが果たして日本に向けて飛んでくるのか、あるいは外国(米国)を狙ったものなのか、それらを確認できない段階で日本が迎撃ミサイルを発射した場合、「それは集団的自衛権の行使にあたるのでは…」「そのためには憲法解釈の変更が必要ではないのか…」等々の議論がこれまで政府内で行われてきました。

敵ミサイルが既に一発でも日本に着弾したのであれば、それ以降のミサイルも日本を狙ったものである恐れがあるとして、すべて要撃することになるでしょう。

それは個別的自衛権の範囲となります。

また、敵が日本に向けてミサイルを発射することを予告し、脅しをかけてきた場合にも個別的自衛権が成立するので迎撃可能です。

ところが、今回のように何ら予告もなく、日本には一発も着弾していない段階で、どこへ向かうのか確認できない敵ミサイルを要撃することは、残念ながら現在の日本にはできないのでございます。

ゆえに我が国では、日本は米国のミサイル防衛に参加できるのかどうか、あるいは参加するために集団的自衛権の憲法解釈を変更すべきだといった議論が巻き起こってきたわけです。

しかしながら、集団的自衛権の行使が認められたとしても、世界のどこの国にも着弾していない段階で要撃していいのかどうか、米国からの支援要請がない段階で発射することはどうなのか、さらには日本が収集した情報の米国への提供は集団的自衛権の範囲なのかどうか、といった複雑な論争もあって議論は尽きないところです。

なので、日本が米国のミサイル防衛に参加するにしても集団的自衛権と絡めて議論するのは止めたほうがいい。

そもそも米国はミサイル防衛を自衛のためのもの、つまり米国本土の自衛、友好国日本の防衛、日本に駐留する米軍の防衛のためのものとは考えていません。

彼らはあくまでも米国を中心とした世界秩序の維持、発展を目的にしています。

政治家も含めて多くの日本国民は、ノドンやテポドンなど北朝鮮から飛来するミサイルが日本に落ちないようにするために米国のミサイル防衛が存在していると単純に考えています。

むろん、それも間違いとは言えませんが、米国や諸外国が考えているミサイル防衛の極めて小さな一部に過ぎないことを知るべきです。

今回の北朝鮮のミサイル発射に対し、その報復措置として米韓は戦闘機で爆撃訓練を行っており、日本もまた報復措置として米国とともに戦闘機で共同訓練を即日で実行しています。

これらの報復措置は、集団的自衛権の行使などではなく、むろん集団安全保障の一環として行われています。

繰り返しますが、米国は自らを含む特定の国を守るためではなく、米国主導の秩序維持のためにミサイル防衛を考えています。

そこには、日本国民が考える「専守防衛」とは大きな隔たりがあることを私たちは知るべきです。