公立病院は赤字でいい

公立病院は赤字でいい

我が国では、貧富の格差に関係なく誰もが安心して医療を受けることのできる国民皆保険制度が維持されています。

その医療水準の高さにも定評のある日本ですが、人口当たりの医師数については先進国のなかで最低水準であるのをご存知でしょうか。

医師数だけではなく医療費も最低です。

意外にも現場で働いておられる医師の先生方ですら、その現実を知らない人は多い。

当たり前の話ですが、お医者さんはあくまでも医療従事者なのであって、先進国のなかで日本は医師数が多いのか、あるいは医療費が高いのかなどの医療制度については医療行政の範疇となります。

軍隊でいえば、戦闘兵と参謀部の違いがあります。

また、医学を学んでいる医学生たちの多くもまた「医師数の多い日本では、やがて医学部の定員は削減される」と思い込んでいるらしく、あるいは「日本の医療費は高すぎるので、これもやがては削減されていく」と信じて疑われていないのが現実だそうです。

医者や医学生だけではなく、医療に従事していない一般国民もまた同様のイメージをもっておられることでしょう。

医師も専門医も医療費も少ないなかで、安全で質の高い医療を提供するのは困難だと思うのですが、そこは帝国陸海軍同様に現場の驚異的な努力と頑張りによって成り立っているのにちがいない。

ただ、それでは長期戦は戦えない。

現場の医療従事者(医師や看護師)の皆さんだって生身の人間なのですから。

日本のメディアは「医療ミス」や「医師によるカルテの改竄」というような医療従事者側のスキャンダルについては積極的に報道しますが、日本の医師数や医療費の少なさといった医療環境面についてはほとんど報道しない。

それはおそらく「もっともっと医療費を削減したい…」という財務省様への忖度からでしょうけど。

我が国で構造改革が本格的にはじまった1990年代、当時の橋本内閣は「日本は将来的に高齢化するため、社会保障費を見直さなければならない」と狼煙を上げました。

政府が「社会保障費を見直す」といった場合、社会保障費の大部分を占める医療費が削減されることは明らかでした。

以後30年間、メディアは「医療費は削減されねばならないもの」と一貫して煽ってきたのですから、日本の医師数や医療費が先進国のなかで最低水準であることを知らない日本国民が多いのも宜なるかな。

そんな洗脳に乗せられた人たちは、例えば公立病院が赤字経営であることを「経営努力が足りない」と言って批判します。

川崎市議会にも「公立病院はもっと頑張って黒字をだせ…」と言う議員さえいます。

しかしながら、この種の人たちは、国民皆医療保険を維持している我が国では病院経営を黒字にすることは物理的に難しいことを知らない。

経済界のお偉いさんたちも「俺たち民間企業は経営努力で利益を上げているのに、どうして病院経営は黒字にならないんだ」と言う人がいますが、彼ら彼女たちらは医療費が公定価格であることを知らない。

一般国民の多くもまたそのことを理解していない。

例えば、日本の外来診察料は一人7,000円ぐらいですが、欧米だと数万円以上です。

あるいは日本で盲腸手術すると、入院料と手術料を含めて約30万円くらいですが、これも欧米では100万円は優に超えます。

日本の場合は胃がんの手術で100万円くらいです。

即ち、欧米の盲腸手術と日本の胃がん手術が同じくらいでしょうか。

日本の自動車メーカーだって定価500万円の高級自動車を、国から「100万円で売りなさい…」と公定されたら利益を出せないどころか大赤字でしょうに。

公立病院の赤字は、医療サービスを受ける国民にとっては黒字であることを理解すべきです。

なのに我が国には公立病院に黒字を求めるお〇〇さん議員が多いのはまことに残念なことです。

いま川崎市議会では、決算審査特別委員会が開かれています。

来る9月29日(木)、川崎市立病院(公立病院)を所管する「健康福祉分科会」が開催され、昨年度決算についての質疑が行われます。

私も質問に立ちます。