去る7月、任期満了で日銀の審議委員を退任された片岡氏が「最短なら来年半ばに日銀が金融緩和政策からの正常化に踏み出すべきかを判断するタイミングが訪れる可能性もある」という見通しを示してます。
その根拠として、原材料高の価格転嫁の動きが継続して2〜3%の名目賃金の引き上げが続く見通しになれば、賃金上昇を伴う物価上昇が確認できる可能性があると言っています。
はて?
コストプッシュ型インフレとデフレが併存しているなかで、賃金上昇に伴う物価上昇などあり得るのでしょうか。
そもそも名目賃金が引き上げられたとしても実質賃金が下がってしまえば何の意味もありませんし、ご承知のとおり、岸田内閣は防衛費以外には予算を大幅に増やす気などありません。
6月に閣議決定された『骨太の方針2022』でも、社会保障費以外の一般財源の伸びは3年間で1000億円というキャップが嵌められています。
この程度の規模の財政支出で現在のデフレギャップが埋まるとは思えません。
金融政策を通常モードに戻すためには、デフレ脱却に伴う酒類を除いたコアコアCPI(生鮮食品とエネルギー価格を除いた消費者物価)の上昇こそが最低条件です。
ところが酒類を除いたコアコアCPIは未だ0%で推移しています。
5月 0.2%
6月 0.2%
7月 0.4%
来年の半ばまでにデフレギャップを埋めるのであれば、政府が10月に編成しようとしている「補正予算」と「来年度予算」で相当額の財政支出を行わねばならないと思います。
日銀はもともとコアコアCPIを指標としておらず、なぜかエネルギー価格を含むコアCPIを指標としています。
そのコアCPIは、ことし4月の段階で既に2%を超えています。
なので本来であれば日銀の物価目標は既に達成されているわけですから、来年の半ばまで待つことなく数月中には量的緩和を終了しなければならないはずです。
それができないのは、デフレギャップを放置したまま金融緩和を終了するわけにはいかないからではないのか。
どんなに日銀が金融を緩和(量的緩和)してもデフレギャップを埋めることは不可能なのですが、デフレギャップが埋まらないまま金融緩和を終了すると景気がさらに落ち込んでしまうのは確実です。
いわゆる金融政策の「紐」理論です。
紐は引くことはできても、押すことはできない。
言わでもがな、もっか我が国の経済政策の最重要課題は金融政策の正常化の時期ではなく、政府による財政政策の規模です。
もちろん、デフレギャップを埋めるのは日銀の「金融政策」ではなく政府の「財政政策」なのであって、その責任は内閣と国会にあります。
とりあえずは10月に編成予定の補正予算(経済対策)を注視します。