きのう浜田防衛相は記者会見で「火薬庫の整備が必要だ」と強調し、年末の国家安全保障戦略などの改定に向け「検討を進めていく」と述べました。
どうやら防衛省は、来年度増額される防衛予算によって、長射程のスタンド・オフ・ミサイルを配備したいらしい。
概算要求では、スタンド・オフ・ミサイルの配備だけで約1300億円+事項要求(金額を示さない要求項目)としています。
因みにスタンド・オフとは、一般的に「離れている」を意味しますので、要するに相手の脅威が及ばない離れたところから攻撃できる長い射程のミサイルということです。
代表的なものとしては、国産で能力向上の開発を進める「12式地対艦誘導弾」の量産と配備を急いでいるようで、開発とは現在100〜200キロの射程を1000キロ超にまで伸ばしたいという。
実はこの開発自体は既にはじまっており、当初は2029年度から配備したいとしていましたが、これを2026年度に前倒ししたうえで量産するとのことです。
浜田防衛相が強調する「火薬庫の整備」は、このスタンド・オフ・ミサイルを含めて必要な弾薬の取得のためには絶対に欠かせないもの、ということなのだと思われます。
防衛省がスタンド・オフ・ミサイルの能力向上とその配備を急いでいる理由は、公式には発表していませんが緊迫する台湾情勢が念頭にあるようです。
もしも中国が台湾に侵攻した際、領有権を主張する尖閣諸島はもちろん、与那国島をはじめとした先島諸島、南西諸島に上陸される可能性が高いとみています。
例えば南西諸島に相手の艦艇が接近した場合、それを阻止するためには現在の12式地対艦誘導弾では能力が足らないということなのでしょう。
なお、長射程のスタンド・オフ・ミサイルを戦闘機や艦艇にも搭載できるようにし、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力も強化したいとしています。
しかしながら、一点注意しなければならないことがあります。
迫る脅威に十分に対処したいという気持ちは理解しますが、あまりにもそれに特化してしまうと「脅威対抗論」に基づく防衛力整備になってしまいます。
「脅威対抗論」というのは本来、戦略計画を含めた「軍事運用計画」のためのものであって、防衛力整備のものではありません。
私たち日本国民は、脅威対抗論で軍事力を整備して痛い目をみてしまった苦い歴史をもっています。
一例を挙げれば、日露戦争以降、我が国では仮想敵国を「陸軍はロシア、海軍はアメリカ」と夫々に定め、脅威対抗論で50個師団とか88艦隊などという軍備拡張計画を立てました。
ところが、結果として陸軍は異なる敵と戦い、海軍は予定の敵と戦ったもののその敵の懐の深さを見誤りました。
そもそも陸軍と海軍とで脅威認識が異なっていた点が問題ですが、脅威対抗論で軍備を整備したこと自体が大きな失敗だったと考えます。
今後進められる防衛力整備(抜本強化策)が、同じ轍を踏んでしまうことのないようにお願いしたい。
なによりも防衛力整備は「基盤的防衛力」に拠るものであるべきで、むろん長射程スタンド・オフ・ミサイルを配備増強することに異論はありませんが、これまで我が国が弱点としてきた情報(サイバーを含む)・兵站の分野にも充分なるヒト・モノ・技術を投じるなどして基盤的防衛力を強化してほしい。