ロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎました。
半年を経つつも、ロシアがその軍事活動によって欧米のレッドラインを超えることもなく、あるいは欧米がウクライナへの軍事支援でロシアのレッドラインを超えることもないという状況が続いており、なんとか世界大戦に至ることなく国境紛争に留めています。
いずれにしても、未だ出口は見えない。
さて、きのうはイギリスの国防省が「ロシアによるウクライナ侵攻のスピードが計画を下回っている」という分析を示しています。
もしもその分析が事実だとすると、ロシアは戦略的に敢えてそのようにしている可能性があるのではないでしょうか。
おそらくロシアは、プーチン大統領が「特別軍事作戦」と呼ぶこの戦争を「できるだけ長期化させることが得策だ」と考えているのだと推察します。
その根拠は、EU(欧州連合)の結束の乱れにあります。
戦争の初期段階においてEUは「反ロシア・反プーチン」の旗のもと、見事に結束の意志を示していました。
侵攻後すぐにドイツは1000億ユーロという巨額の軍事費を追加計上すると発表し、EUとしても初めて第三国への武器移転を促進することを決めています。
また、ウクライナ市民にEU圏内での「移動と就労の自由」を認めることで、一時的な保護を与えることにも合意しています。
むろん、これら以外にも各種の措置を採っています。
7月26日にはEU加盟国としてロシアに対抗していく決意を示すために、天然ガスの消費削減合意を発表しています。
一定期間(今年の8月から来年の3月まで)、天然ガスの消費量を15%削減していくことに各国が合意することで、ロシアがヨーロッパへのエネルギー供給を兵器化するのを抑え込もうというわけです。
この合意は、戦争が勃発して以降、ヨーロッパが維持してきた連帯を再確認するものだったのだと思います。
とはいえ実際には、削減はあくまでも目標にすぎず、多くの国が例外規定をもっているようで、しかもガス不足のレベルが国ごとに異なるために「合意にどれほどの意味があるのか?」と疑う者も少なくありません。
侵攻から半年を過ぎた今、EU各国はコスト面からもこれまでの路線を維持するのに苦労している有様です。
経済的にはインフレ率の上昇、景気後退リスクの顕在化、エネルギー危機の深刻化などなど、各国の政策担当者たちは、紛争がもたらす社会・経済的影響とその政治的・地政学的余波について大いなる懸念を感じているにちがいない。
つまり制裁を課している側のEUもまた、ロシアと同様に多くの課題を抱え疲弊しているのです。
こうした課題に満ちた状況のなかで、EU諸国の結束がどこまで保たれるのかが大きな問題として浮上してきたわけです。
例えばウクライナ戦争が出口の見えぬ小康状態になった場合にはどうなるのでしょうか。
そんな状態のなかで、仮にEU諸国がエネルギー危機に晒されるような事態となれば、すかさずプーチン大統領は一部のEU諸国に働きかけ、それを梃子にウクライナ政府に譲歩を迫ることができます。
ウクライナ戦争の小康状態化、即ち長期化はEUにとって大いなる脅威ではないでしょうか。
その意味で当該戦争は、ロシアとウクライナによる根比べでもあり、EU諸国を含む欧米とロシアによる根比べでもあります。