かつて毛沢東は「戦争とは血を流す政治であり、政治とは血を流さない戦争だ」と言っていました。
私は、目下進行中のウクライナ戦争をみるにつけ、「戦争とは血を流す情報戦であり、政治とは血を流さない情報戦である」ことを改めて痛感します。
先日、クリミアにあるロシア空軍の拠点・サキ飛行場で爆発が発生しました。
ロシアが支配する地域で起きた被害としては、2月24日からはじまった戦争以来、過去最大規模の爆発となります。
ウクライナ軍高官はこれを「南部戦線におけるウクライナ軍反転の狼煙だ」としており、ウクライナ軍の反転攻勢の可能性が指摘されはじめています。
前述のとおり、サキ飛行場はロシア軍の攻撃の拠点です。
今回の複数回の爆発で9機のロシア軍機が破壊され、1人が死亡、13人が負傷した、という報道も伝わってきています。
戦闘機や爆撃機に搭載する弾薬が爆発したとみられていますが、あくまでもロシア側は「弾薬の取り扱いのミスが爆発の原因であり、ウクライナ軍による攻撃によるものではない」と主張しています。
もっともウクライナ政府もまた「これは自分たちの攻撃によるものだ」とは明言していません。
事実上、表向きは誰がやったかはわからないことになっています。
一方、ワシントンポストなどはウクライナ政府筋の情報として「(今回の爆発は)ウクライナ軍の特殊部隊による作戦の結果だ」と報じています。
米国政府の情報筋も「米国が供与した武器によるものではないが、ウクライナ軍による攻撃」との見方を示しています。
また、地元の抵抗勢力とウクライナ軍との共同作戦がとられたのではないか、との見方もあるようです。
なお、米国の政治情報サイトのポリティコは、二人のウクライナ政府の情報筋からの証言を基に「この爆撃が南部戦線でのウクライナによる一つの反撃の狼煙であり、戦争は新たな局面に入る」と指摘しており、この8月と9月がウクライナ戦争の重大な局面を迎えると言っています。
そうしたなか、ゼレンスキー大統領が「この戦争はクリミアではじまり、クリミアの解放で終わる」という趣旨の発言をしているのも興味深いことです。
とはいえ、これら一連の情報は、ウクライナ側の戦意高揚のためのプロパガンダ、あるいはインテンショナルリークの可能性もあります。
ただ、ウクライナ高官らが、年末までに南部ヘルソン州を奪還する考えを示していることから、仮に南部においてウクライナ軍が本格的な反転攻勢にでてくるのであれば、敵であるロシアの航空戦力の拠点を叩くことは極めて合理的です。
しかし、本当に反転攻勢にでるのであれば、その情報を秘匿しておくこともまた合理的だとも言えます。
ロシア側の支配地域である南部ヘルソン州では、この地域をロシアに併合(編入)する動きが加速しているため、たしかにウクライナ軍としてはその前になんとか当該地域を奪還しておきたいという思惑があっても不思議ではありません。
同時に、ウクライナ東部のイジューム付近でもウクライナ軍が反転攻勢にでていると言われていますが、なぜかこれについては軍当局はながく沈黙を守っている点は実に不可思議です。
ロシア軍は「今回の爆発はあくまでも事故である」と主張していますが、かつて黒海艦隊の旗艦モスクワが撃沈されたときと同様に「今回の爆発がウクライナ軍の攻撃によるものである」と認めるインセンティブもないとみられています。
もしも「ウクライナ軍にやられた」と言えば、自軍の弱さを晒して士気を低下させるリスクが高まるだけですし、ロシアが併合したクリミアの親ロシア住民に対しても「いらぬ動揺」を与えることになります。
だからこそロシア側としては「あくまでも事故だ」と言っているのかもしれません。
ただ、例え事故だとしても、これだけの損害がでている以上、“凄まじい失態”であることに変わりはなく、むしろ「ウクライナ軍による攻撃のせいだ」としたほうがいいのではないかとさえ思ってしまいます。
いずれにしてもロシア軍が思うように戦果を挙げられていないのは確かなようですが、ここにきてNATO国防大学が興味深い指摘をしています。
ロシア軍が思うような戦果を挙げられず苦戦しているのは、やがて訪れるかもしれない「NATO軍との戦争」に備え軍事力を温存しているためではないか、という指摘です。
かねてよりロシア軍というものは、最初はひどい過ちを犯しつつも戦争が進むにつれて徐々に修正していく軍隊である、というのが定評であり、今回もそうした展開になっており、今後もNATO軍とロシア軍が戦う可能性がなお存在するとしています。
そしてその戦いというのは、ロシア軍にとって今までよりも「より準備された戦争」になるであろう、と論文は結論づけています。
場合によっては、核の使用もあり得る、と。
むろん、この論文自体がどこまで的を射ているのかもわかりません。
戦争は不確実性の塊です。
だからこそ、様々な情報が飛び交います。
さて、あなたはどの情報を信じますか?