エネルギー安全保障の肝は多角化にあり

エネルギー安全保障の肝は多角化にあり

昨年9月から、東京電力や関西電力など各社の電気料金が値上がりし続けています。

その主たる理由は、液化天然ガス(LNG)や石油などの輸入価格の高騰に伴い、燃料費調整額が値上げされていることにあります。

燃料費調整額とは『燃料費調整制度』に基づいて決められる発電の燃料費のことで、毎月の電気料金のうち、電力量料金(従量料金)に対する補正として適用されていますが、電力会社のほとんどはこの燃料費調整額を電気料金に組み込み、その額は私たちの手元に送られてくる「電気料金の明細」に記載されています。

ご承知のとおり、我が国は動かせる原発を稼働させていないために、火力発電に依存しています。

この夏もまた電力需要の逼迫を回避するために、老朽化し解体寸前の火力発電所を稼働させてなんとか凌いでいるのが実状です。

同じ火力発電でも、石炭に比べてCO2(二酸化炭素)の排出量が半減されるLNG火力発電に多くを依存しています。

ところが、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻によって、LNG市場もまた逼迫しています。

天然ガスの最大輸出国であるロシアが、エネルギー安全保障を外交カードとして大活用しているために世界は翻弄されています。

日本の商社やロシア企業などが共同で出資してきたLNG調達の拠点「サハリン2」についても、プーチン大統領は事業主体をロシア企業に変更し日本企業を排除する大統領令に署名しました。

サハリン2からの調達は、日本のLNG輸入量のおよそ8%です。

仮に日本の商社が権益を失い、LNGの輸入が止まることになれば、今後、電力不足が一段と深刻になる恐れがでるとも言われています。

とはいえ、我が国がロシアに依存しているLNGは国内需要の8%に過ぎません。

エネルギー安全保障の最大の肝は、多角化にあります。

即ち、電力源(原発、火力、水力などのベース電源)の多角化。

あるいはエネルギー源(石油、石炭、LNGなど)の多角化。

そして、エネルギーの供給先や供給ルートの多角化です。

実は我が国のLNG調達ほど、大いに多角化が進められてきたエネルギー源はありません。

にも関わらず、電力需給が逼迫し、その料金が跳ね上がっているのはなぜか?

むろん、原発を動かしていないからです。

先月、岸田総理は「冬に備えて、最大9基の原発を稼働する」と、いかにも自慢げに発表しましたが、これは現在運転中の5基を含め、今後2022年中に既に再稼働が決まっている4基の原発が予定通りに稼働されます、ということを改めて発表したに過ぎません。

要するに、岸田総理は「既に決まっている再稼働を予定通り進めます」と表明しただけなのでございます。

実に間抜けな話です。

これを受け「経済産業省も岸田総理の記者会見での公表の意味をつかみかねている」という報道もありました。

そもそも9基が発電できる能力は、真冬の電力供給能力の約5%にあたる約900万キロワット分でしかない。

しかも稼働するのは西日本に限られ、電力不足が不安視されている東日本の原発は含まれていません。

つまり、西日本にあるたった9基の原発を稼働させるだけでは、火力発電への依存及び供給不安を払拭することはできないのでございます。

大手信用調査会社の調査では、今後も電気料金の高騰が続いた場合、販売価格へ転嫁せざるを得ないと回答した企業が3割(29.6%)に及んでいます。

こうした価格転嫁への動きは徐々に広がっていますので、益々もって家計の負担は増えていくことになります。

原油の値上がりの影響だけでも、二人以上の勤労者世帯の年間の支出額が去年と比べて平均で4万3,711円(年間)も増えてしまう、という試算もあります。

ご承知とおり、値上がりしているのは原油だけではありません。