昨夜、ペロシ下院議長が米国政府専用機で台湾に入りました。
当然のことながら中国は猛反発しています。
下院議長といえば、大統領と副大統領に万が一のときがあれば直ちに大統領に就任し、国家の舵取りはもちろんのこと、米軍の最高司令官となって采配を振るう極めて重要な地位にあります。
一丁上がりぎみの国会議員が引退間際に就任する日本の衆議院議長とは格が異なります。
中国は台湾周辺において夜間の軍事演習を行うなどして軍事的デモンストレーションにより脅しをかけ、米軍も空母2隻を台湾周辺に遊弋させるなどして臨戦態勢にあるため、偶発的な衝突リスクはけっして低くはなく軍事的緊張が高まっています。
しかも中国は明日から7日まで、台湾周辺の6箇所で大掛かりな軍事演習を行うことを明言しています。
それにつけても、ペロシ下院議長の挑発的訪台は我が国にとっては誠に迷惑な話です。
他人様の庭先で、大火事を招きかねない火遊びをされるようなものです。
米国では秋に中間選挙が行われます。
ゆえに、民主党政権の対中強硬姿勢を示しておきたい、という思惑があっての挑発行為だと思われます。
対する習近平主席も秋には共産党大会を控え、3期目を迎えるにあたり、今回のペロシ下院議長の挑発行為には強硬に反発しておく必要があるのでしょう。
米国の強気な対中姿勢を示すのはいいが、いざ台湾危機が生起した場合、彼ら彼女らには本気で台湾のために戦う気概など微塵もありません。
ウクライナ危機をみればお解りのとおりで、せいぜい台湾に武器を提供する程度でしょう。
核をもった世界第2位の軍事大国と、米国が本気で事を構えることなどあり得ない。
ではどうして、今回のような挑発行為をするのか?
それは、中国が簡単には台湾へ侵攻できないことを理解しているからです。
例えば地形的にも、台湾海峡は130〜260キロと意外と幅が広く、また水深も浅い。
その上、東シナ海と南シナ海の間に位置しているため潮の流れも速く、気象も不順で霧や雲がかかることもしばしばです。
さらには中国に面した台湾の西側の海岸は、大軍の上陸には適してない。
中国の海兵隊は現在4万人ほどで、77年前、米軍が当初28万人の陸兵を沖縄に上陸させたことを考えれば、規模として中国の台湾侵攻は後続の陸軍と合わせて30万人ほど必要になるのではないでしょうか。
ところが、それだけの人員と補給品を運んで揚陸する船舶・航空機が足りない。
これらのことを勘案すると、習近平体制がよほどに不安定化し、すぐにでも台湾を攻撃しなければクビがつながらない、といった状況にでもならないかぎり、今すぐ戦火を交えることは不可能です。
中国の軍事予算が台湾の20倍(2020年時点)といっても、いざ侵攻するとなるとそのハードルはけっこう高いのでございます。
当然のことながら、米軍はそのことを百も承知です。
米軍から情報を得られるペロシ下院議長も理解しているはずです。
だからこそ「中国は簡単には台湾に手を出せない。せいぜい周辺での軍事演習で脅しをかける程度だ」と踏んでいるわけです。
ペロシ下院議長の挑発的訪台は、そうした背景があってのことです。
ただ、軍事演習を行う中国軍と、警戒監視にあたっている米軍との間での偶発的な衝突リスクが高まることは避けられません。
その点、習近平主席が言うように「ペロシ下院議長の訪台は、危険な火遊び…」であることはまちがいない。