きのう国内債券市場で長期金利が再び低下(債券価格は上昇)しました。
指標となる新発10年物国債の利回りは0.005%の低下(前日比)で、0.2%で取引されています。
その理由を、市場関係者たちは「IMF(国際通貨基金)が2022年の世界経済の実質成長率見通しを下方修正したことなどから、世界景気が悪化するとの懸念が強まったためだ」としていますが、果たしてどうか。
そもそも日本は資金需要の乏しいデフレ経済です。
昨今、我が国で言われているインフレは供給制約により発生するコストプッシュ・インフレであり、デフレ脱却ではありません。
私たち日本国民は一日に100の生産ができるのにも関わらず、お客さんが90しか買ってくれない。
これが需要不足であり、デフレーションです。
100の生産が可能なのに需要が90しかない。
となると、私たちは生産した財(モノ)やサービスをたたき売ろうとするために価格が下がります。
このとき、物価の下落とはあくまでデフレの二次的な現象に過ぎないのであり、物価が上昇したからといってデフレ脱却にはならないのでございます。
需要不足が続く中で、物価だけが上がるという現象は普通に起こり得ます。
輸入物価上昇に伴うコストプッシュ・インフレの場合、値上がり分が日本の生産者の所得にならず、外国の生産者の所得になってしまうところが実に厄介なのです。
もしも値上がり分が日本の生産者の所得になっているのなら、それが次なる需要に向かう可能性も充分にあるのですが、輸入物価上昇に伴うコストプッシュ・インフレでは需要増は期待できない。
輸入物価上昇によりエネルギー価格、食料価格が上昇したとしても日本国民の所得は1円も増えません。
因みに、所得が増えないにも関わらず支出のみが増えるという点では、コストプッシュ・インフレは消費税増税にそっくりです。
消費税増税も、国民の所得は1円も増えないにも関わらず、強制的に物価が引き上げられるわけですから。
我が国は1997年の橋本緊縮財政以降のデフレが終焉しないままに、輸入物価上昇に伴うコストプッシュ・インフレが襲来するという最悪の局面を迎えています。
その上、日本はコロナ禍に対して充分な財政措置をとらなかったために、未だデフレが続いており、日本銀行が利上げできる状況にありません。
そんな日本とは対照的に、米国は大規模財政出動により景気が一気に拡大し、FRB(米国の中央銀行)は継続的な利上げを示唆しています。
為替や株式相場は、みんなが上がると思えば買われ、みんなが下がると思えば売られる、という自己実現的予言で変動します。
現在進行中の円安はその結果です。
日本が円安ドル高を問題視するのであれば、財政拡大により利上げ可能な環境をつくる以外に手段はありません。
しかも一層厄介なのが、値上がりしている輸入品項目が尽く「エネルギー」や「食料」などの生活必需品、即ち安全保障と密接に関わる戦略物資であることです。
今後、我が国で進行するであろうコストプッシュ・インフレは、食料やエネルギーという必需品の価格を引き上げ、特に低所得者層にに大きな打撃を与えるのに加え、エネルギー安全保障の危機を顕在化させることになります。
エネルギーについては海底資源等に対する開発投資を怠ってきたツケが、食料については自給率を引き上げてこなかったツケが、国民生活に容赦なく襲いかかることになりましょう。