きのう羽鳥のモーニングショーで、玉川某という番組コメンテーターが視聴者に誤解を招く発言をしていました。
番組の話題が、防衛費の増額とその財源について及んだのですが、その際に玉川氏は…
「昨今、財源を国債に求める風潮があるが、財政法4条は赤字国債の発行を禁止している。しかもその目的は戦争を起こさないためである。だから国債を財源に防衛費を増やすべきではない」
…という趣旨の発言したのです。
※財政法第四条「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。」
財政法が制定されたのは1947(昭和22)年です。
この法案が国会で審議された際、平井という当時の大蔵省法規課長は「財政法第4条は憲法9条の裏書き条項である」と答弁しています。
平井法規課長の答弁を要約すると「憲法9条という“非戦の誓い”を、財政法4条という具体的手段で補強している」ということです。
おそらく玉川氏の発言は、この平井法規課長の国会答弁を引用してのものであろうと推察します。
そもそも1947(昭和22)年といえば、まさに我が国はGHQによる占領統治下にあり、主権の存しない状態にありました。
日本を二度と戦争のできない国にするために、GHQが現行憲法を制定させたことは疑いようがない。
平井法規課長が「財政法4条は、憲法9条の裏書き条項だ」と国会答弁したのには、そうした背景があってのことです。
とはいえ、財政法4条には、次のとおり「但し書き」があります。
「但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」というものです。
だからこそ日本政府は毎年「特例公債法案」を国会に提出し、議決を経た上で赤字国債(正式名称は特例公債)を合法的に発行しています。
その上で、改めて財政法4条を読んでほしい。
「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」
要するに「原則的には収支均衡が望ましいけれど、国会の議決を経た範囲内なら国債を発行してもいいですよ」と言っているわけであって、財政法は「赤字国債の発行を禁止する」などとなっていない。
なお玉川氏は「戦争を起こさないために赤字国債の発行は禁止されている…」と言うが、それではまるで赤字国債の発行が戦争を引き起こしているような言いぶりではないか。
だとすれば、それは明らかに歴史と事実に反します。
現実には、戦争が起きてしまったがゆえに公債発行を増やさざるを得なかったのであって、公債発行が戦争をもたらしたのではない。
戦後、日本がはじめて赤字国債を発行したのは、1965(昭和40)年のことですが、以来57年間、我が国は1度も戦争をしていない。
それよりもむしろ、収支均衡にこだわった濱口雄幸内閣の時代に満洲事変が起こり、収支均衡を制度的に裏付けた金本位制のもとで第一次世界大戦は勃発しています。
ちなみに、収支均衡主義のナポレオンは、財源欲しさにヨーロッパじゅうを侵略しまくっていたではないか。
我が国の昭和史をみてもわかるとおり、デフレ下の緊縮財政から左翼・右翼の全体主義やファシズムが台頭しています。
意外に思われるかもしれませんが、戦前の軍部も収支均衡主義でした。
当時、軍部は軍備増強のために大蔵省に増税を求めていましたが、高橋是清蔵相は国内経済がデフレ脱却過程にあることを理由に増税に反対しています。
デフレを脱却したのち、歳出を引き締めたところで高橋は226事件により暗殺されてしまいました。
515事件であれ、226事件であれ、それらを首謀した青年将校たちの怒りの根源は、もとはといえばデフレ経済(緊縮財政)にあったのです。
国債発行(借金)の拡大よりも、むしろ収支均衡主義のほうが世を不幸にしていることを歴史は物語っています。