経済産業省と国土交通省は、2040年までに『フィジカルインターネット』を実現するためのロードマップを示しています。
フィジカルインターネットとは「次世代型の物流システム」のことです。
どうして次世代型の物流システムを構築しなければならないのかというと、ここ数年で我が国の物流コストが深刻なほどに上昇しているためです。
上のグラフを見てのとおり、「宅配便」「道路貨物輸送」の価格は飛躍的に上昇しています。
道路貨物輸送サービス価格は2010年代後半にはバブル期の水準を超え過去最高となっており、「宅配便」に至っては急騰と言っていい。
なお、1980年代後半の物流コストインフレは物流業界における賃金の上昇をもたらしていたのですが、現在進行形のそれは賃金の上昇をもたらしていない点で深刻な構造問題です。
物流コストインフレの要因を需要面からみると、やはりネット通販(eコマース)市場の拡大が大きい。
とくにラストワンマイル(家庭まで)の輸送には莫大なコストを要するという。
しかも多品種・ショーロット輸送が増加しているため、トラックの積載効率が低下しているとのことです。
供給面からみると、少子高齢化(人手不足)やドライバーの労働環境の悪化によって、2000年代後半以降にドライバー数が急減したことの影響が大きい。
確かにトラックドライバーの平均年齢は全産業平均よりも高くなっており、大型トラックのドライバーに至っては50歳ちかくにもなるという。
いかに若いドライバーの成り手が少ないのかがわかります。
労働環境が劣悪なうえに低賃金では、この人手不足時代に若い人たちがドライバーを希望するはずもない。
このままいくと、2027年にはトラックドライバーが24万人不足し、2030年には物流需要の36%が運べなくなってしまうという試算がでています。
その場合、失われるGDPは10兆円以上です。
トラックドライバーの年間労働時間を短くするために、働き方改革の一環として2024年にトラックドライバーの時間外労働に上限(年960時間)規制が設けられることになっています。
しかしながら、ほかの条件が変わらないまま、トラックドライバーの労働時間だけが制限されることになれば、輸送量の減少は避けられません。
その結果、2024年頃から物流コストがさらに高騰する可能性があります。
これがいわゆる「物流業界の2024年問題」です。
加えて脱炭素化の問題もしかりで、ほかの条件が変わらないままに脱炭素化だけを進めてしまえば、物流供給の大きな制約になるだけです。
このように複数の理由から物流の供給制約が高まる一方で、eコマース市場の拡大等、物流需要は益々もって高まっていくわけですから、今後とも物流コストインフレが進んでいくのは明らかです。
要するに、既存の物流システムが時代にそぐわなくなっており、深刻な物流コストインフレを克服するためには物流システムを根本的に見直す必要性が生じています。
例えば、トラックドライバーを確保するためには運賃を上げねばなりませんが、運賃を上げれば(労働環境を改善すれば)当然のことながら物流コストも上がってしまいます。
ゆえに、物流コストに占める「運賃」ではない部分、即ち「非効率性」の部分を大幅に圧縮することが必要になります。
非効率性の圧縮とは、即ち生産性の向上にほかなりません。
運賃を上げつつ生産性向上により物流コストを下げるわけですから、むろん物流システム全体を大幅に改変する必要があります。
が、それはもはや個々の企業努力だけでは追いつかない。
そこで、フィジカルインターネットの構築が求められているわけです。
例えば、輸送時の容器を業界で統一化したうえで、デジタル技術を駆使して物資や倉庫、あるいは車両の空き情報等を見える化する。
そうすることで、規格化された容器に詰められた貨物を、複数企業の物流資産(倉庫、トラック等)をシェアしたネットワークで輸送する、という共同輸配送システムが実現できます。
また、業界側のみならず、例えば荷主側(消費者側)の発注の仕方や受け取り方なども統一化・平準化することで、このシステムはより効率化されます。
つまり、個別企業や業界だけでなく、日本中の物流ステークホルダーが共同することで究極の共同輸配送システムを構築しようとするのがフィジカルインターネットです。
なお、物流システムの効率化(生産性向上)のためにも、道路インフラの充実による交通流の円滑化が不可欠かと思われます。
川崎市は、都市計画道路の整備率が未だ77%以下です。
本市の遅れている道路行政が、我が国の新たな物流システム構築の妨げにならなければよいが…