財務省によると、国の2021年度の税収が67兆円規模となり、2年連続で過去最高を記録します。
過去最高額だった2020年度の税収(60兆8216億円)を約1割も上回ることになります。
「税収が過去最高…」
なるほど、健全財政派、収支均衡派、モノ貨幣論派にとって税収増は、ただただ朗報でしょうが…
機能財政派、需給均衡派、信用貨幣論派にとっては、日本経済がスタグフレーションの様相を呈している現状においては懸念ごとにほかならない。
なぜなら、後者は「税収増」が何を意味しているのかを理解しているからです。
これを理解するには、そもそも「貨幣とは何か」を理解せねばなりません。
例えば、ある企業の製造する商品の需要が伸び、生産が追いつかなくなったとします。
その企業は、急ぎ設備投資(生産工場の増設など)する必要に迫られ、平素から取引のあるA銀行からおカネ(貨幣)を調達しなければならない。
A銀行は融資条件を充たしていると判断し、結果、10億円をその企業に融資(貸し出し)することになりました。
この時点で、おカネを借りた企業の預金通帳には10億円という預金額が記帳されます。
このときA銀行は、その10億円を他の誰かの貯金から融通しているのではありません。
無から10億円を生み出しています。
銀行がキーボードで「10億円」と打ち込んでいるだけなので、これを「キーボードマネー」と呼ぶ人もいます。
これを銀行による貨幣創造といいます。
つまり民間銀行は、貸し出しを行うことによって、預金という貨幣(預金通貨)を生み出しているのです。
一般的には、民間銀行は企業や家計から預金を集め、それを又貸ししているものと信じられていますが、大きな誤解です。
前述の企業は新設された工場をさっそく稼働させ増収増益となり、無事にA銀行から借りていた10億円を返済しました。
その瞬間、10億円という貨幣がこの世から消滅します。
このようにして貨幣は、民間銀行の貸し出しによって創造され、民間銀行への返済によって消滅するのです。
さて、今の話のポイントは「まずは需要ありき!」という点です。
貨幣は銀行の貸し出しによって創造されますが、そもそもからして借り手となる企業に資金需要がなければ貸し出しは行われず、貨幣(銀行預金)は創造されなかったのでございます。
貨幣創造の出発点には、企業等の資金需要が必要なのです。
企業等に資金需要があって、民間銀行が貸し出しを行うことで貨幣が創造され、その貨幣がまた民間経済の中で使われ循環します。
最終的には企業等が収入を得て貨幣を獲得し、銀行に債務の返済を行うことで消滅する。
したがって、もし不況によって企業等に資金需要がなくなると、銀行による貸し出しは行われませんので貨幣は供給されず、経済の中を循環しなくなってしまいます。
むろん貨幣が循環しなければ経済は成長しません。
それこそが、過去20年以上も停滞する日本経済の姿です。
以上のような貨幣循環の過程は、実は政府に対する貸し出しについても同じことが言えます。
「政府に資金需要がある」→「中央銀行が政府に貸し出しを行う」→「貨幣が創造される」
このように政府は、創造された貨幣を支出することで民間部門に貨幣を供給しています。
そして政府は、課税によって民間企業から貨幣を徴収し、それを中央銀行に返済すると貨幣は消滅するわけです。
ポイントをまとめると、次のとおりです。
1.政府は財政支出するために、あらかじめ徴税による財源の確保を必要としない
2.政府が債務を負って支出することで貨幣が創造され、民間部門における貨幣が増える
3.政府が課税し債務を返済することで貨幣は消滅し、民間部門における貨幣は減少する
つまり「財政赤字の拡大とは貨幣供給の増大であり、財政健全化とは貨幣供給の減少である」ということです。
このように貨幣循環の過程を理解すると「財源確保のためには、増税が必要だ」という議論がいかに間違っているのかが解ります。
何度でも言います。
貨幣は課税を通じて消滅します。
そして、政府が歳出を需要することで、財源(貨幣)が確保されている事実を知るべきです。
したがって、国の税収が過去最高であるというのなら、民間部門に貨幣が不足している今、政府は消滅してしまった貨幣を大きく上回る規模で財政支出(貨幣発行)を拡大しなければならないのです。
これまでがそうであったように、収支均衡を維持し続けてしまえば民間部門の貨幣は消滅するばかりです。