政府財政は、その年の歳入からその年の歳出を差し引いた額がプラスになれば「財政黒字」であり、マイナスになれば「財政赤字」です。
この点においては家計簿と同じです。
ところが、次の一点において政府財政は家計簿とはまったく異なります。
政府の財政赤字は国民経済への貨幣供給(マネー供給)であるのに対し、財政黒字は国民経済からの貨幣回収(マネー回収)となります。
むろん、貨幣(マネー)が回収されればされるほど、経済はデフレ(需要不足経済)化します。
因みに、赤字幅の縮小もまたデフレ化となります。
一方、我が国では…
①リーマン・ショック以来の長期停滞による世界的な供給能力の毀損
②コロナ禍によるサプライチェーンの滞り
③ウクライナ危機によるエネルギー価格や食料価格の高騰
…これら①②③のトリプルパンチによって輸入物価が高騰しコストプッシュ型インフレに見舞われています。
つまり、デフレとコストプッシュ型インフレが併存している状態です。
いわばインフレ的不況(スタグフレーション)と言っていい。
コストプッシュ型インフレの場合、その値上がり分は外国の生産者の所得になるため日本国民の所得は増えず、ただただ家計を圧迫するだけです。
考えてみれば、さらに消費税が増税されたも同然です。
ゆえに今は、家計を支えるためのマネー(財政赤字)と、コストプッシュ型インフレを解消するためのマネー(財政赤字)が必要になります。
前者は消費税減税もしくは廃止、あるいは給付金等の支給でもいいし、後者はインフラ投資や技術開発投資等々の各種投資に加えて、企業が設備投資や技術開発投資をしやすくするための消費需要を創出することが求められます。
政府財政は、そのときどきの経済状態によって赤字にしたり黒字にしたりする調整弁なのでございます。
そうしたなか、6月1日に財務省から発表された「税収実績」によれば、2021年度の一般会計税収は4月末時点で56兆円9342億円となり、これに3月期決算企業の5月納入分を加えると、年度全体では2020年度を大幅に上回る見込みとなることがわかりました。
昨年末の補正予算段階で財務省が想定していた税収見積もり「63兆8800億円」を大きく上回る公算で、法人税、所得税、消費税の「基幹3税」がそろって増加することから、なんと2年連続で過去最大を更新し、初めて65兆円を超える水準が視野に入っているという。
税収が増えることに喜びと生きがいを感じる財務省様としては、さぞご満悦かと思いきや、記者に質問されたある財務官僚は「たしかに増えているけどワニの口がねぇ…」と言って、こんな税収増程度ではまだまだ足りないらしい。
ワニの口とは、一般会計歳出と税収の推移を示した折れ線グラフのことです。
その差が開いていくことから、財務省では20年以上も前からその折れ線グラフを「ワニの口」と俗称しています。
しかしながら、ここに財務省のインチキ体質が顕れています。
なぜなら、一般会計歳出には国債関連費(国債償還と利払い)が含まれています。
だとすれば、比較すべきは「税収」でなく、国債発行による資金調達を含めた「一般会計歳入」であるべきです。
であれば「ワニの口」は広がらない。
むろん、広がらないと困ってしまうから、彼らは敢えて「一般会計歳出」と「税収」とを比較しているわけです。
どこまで狡賢い連中なのでしょうか。
皆様、ご安心下さい。
財務省の言う「ワニの口」が開いたからといって何か問題があるわけではございません。
現に「ワニの口」が開いたところで、国債金利が急騰したわけでもないし、インフレ率が適切な水準を超えたわけでもありません。(現在のコストプッシュ型インフレとは全く関係がない)
「ワニの口(一般会計歳出 ー 税収)」とは、要するに我が国の政府がその年に発行した貨幣量にすぎません。