『骨太の方針 2022』が閣議決定されました。
当該方針は、内閣としての重要課題、及び来年度の予算編成の方向性を示すものです。
今回の『骨太の方針』では、はじめて「PB(プライマリーバランス)」という言葉が消えました。
消えたものの、残念ながら「これまでの財政健全化目標に取り組む」ことが明記されています。
詰まるところ、積極財政派と緊縮財政派の妥協によって実に玉虫色の方針となったわけです。
「これまでの財政健全化目標に取り組む」の一文をねじ込んだのは、積極財政に抵抗する財務官僚たちの意地だったのでしょう。
どうしても財政健全化が必要だ…と言うのであれば、まずは「財政再建」とは何かを定義すべきです。
従来どおり、①PB黒字化のことなのか、それとも②国債発行残高の縮小のことなのか、あるいは③政府債務の対GDP比を低下させることなのか。
しかし①であろうが、②であろうが、③であろうが、日本経済がデフレ経済下にある以上、どれも実現不可能です。
まず①についてですが、税収は名目GDPの伸び率で決定します。
ゆえに、デフレ経済下では名目GDPの拡大は望めないので税収は増えず、たとえ強引に税率を引き上げたとしても税収を増やすことは不可能です。
税率は操作できても税収は操作できないのです。
現に我が国は、消費税の税率が引き上げられるたびに名目GDPが落ち込み更にデフレ化してきました。
誰かの負債(赤字)は必ず誰かの資産(黒字)である、という逃れられない絶対的経済原則がありますので、民間部門(とくに企業部門)が負債を拡大してくれないかぎり政府がPBを黒字化することは物理的に不可能なのです。
といって、需要が不足しているデフレ経済下では、企業が投資(負債)を拡大することは難しい。
企業の内部留保が貯まり続けているのはその証左です。
②については、国債発行残高とはそれ即ち「通貨発行残高」のことなのですから、通貨が不足しているデフレ経済下のなかでこれを減らしたら余計にデフレ化してしまいます。
そもそも政府の国債発行は中央銀行による金利操作(金融政策)を助けるための一手段であって、財源確保の手段ではありません。
③についても、デフレ経済下では前述の理由により分母の名目GDPを引き上げることは不可能ですし、分子の政府債務を減らすこともまた②の理由により不可能です。
このように、財政再建をどう定義しようとも、デフレ経済下での財政再建など物理的に不可能なのでございます。
『骨太の方針 2022』にも「民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け…」という記載がありますので、岸田内閣は現在の日本経済がデフレの中にあることを認めておられます。
認めつつも「財政健全化の“旗”を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としているわけです。
なお、『骨太の方針 2022』には「必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない」と記載されていますが、いや普通に矛盾するでしょ。
そもそも、収支を常に均衡させなければならないという思想そのものが間違っています。
ただただ政府は、その財政政策により日本経済全体の支出総額(総需要)を適正な水準に維持すればいいだけであり、財政収支を常に均衡させる必要などありません。