企業を「株主の私器」のままにしつづける岸田内閣

企業を「株主の私器」のままにしつづける岸田内閣

新自由主義と株主資本主義は同義です。

一方、新自由主義と保守主義は対立する概念です。

にもかかわらず政治の世界では、「保守」を自称する政治家たちが新自由主義(株主資本主義)を追求してきたわけです。

以来、「企業は株主のもの…」という考え方が世を支配して久しい。

株主資本主義の社会では、労働者は企業(株主)にとって使い捨ての道具に過ぎない。

とくに派遣社員などの非正規雇用については、その給与は実質的に変動費に組み入れられているため、業績によっては株主の都合で平然とクビを切られます。

株主資本主義(新自由主義)の権化として有名なパソナグループ取締役会長などは「正規雇用は最後の既得権益だ」などと言って憚らない。

人は、安定して働き続けることによって人材になります。

かつての日本では、根気強く人材を育てた会社ほど顧客を満足させ利益を上げていました。

その利益のステークホルダー(利益供与者)は顧客のみならず、従業員、従業員の家族、取引先、地域社会、国家、株主にも及びました。

高度経済成長を成し遂げたときの日本企業はその典型で、企業は社会の公器だったのです。

毎年、着実に従業員給与(実質賃金)は上昇し、経営者は設備投資を怠らず資本ストックを積み上げることで生産性の向上に務め、そのことは結果として株主利益にもつながっていました。

しかし残念ながら新自由主義以来、企業は社会の公器ではなく「株主の私器」に成り果ててしまいました。

岸田総理は「新しい資本主義を…」と言うけれど、今もってなお上場企業の自社株買いの動きは急増しています。

自社株買いとは、企業が過去に発行した株式を、その企業自身が買取ることです。

日本経済新聞によると、先月と今月の2カ月間で企業が発表した2022年度の買い入れ枠は計4.2兆円とされており、前年同期比で約2倍の規模になります。

株主資本主義における企業は、株主から集めた資本を効率よく利益拡大に活用することが何よりも求められるわけですが、企業が資本をいかに効率的に活用しているかを表す代表的な指標の一つがROE(自己資本利益率)です。

上の図のとおり、企業が自社株を買うと自己資本が減少します。

すると、利益額は変わらなくともROEは上昇し、その企業は「株主が預けた資本を効率的に運用していて喜ばしい…」となります。

また、企業が自社株買いを行うと、市場に出回っている株数が減少することから、その企業の株価は上昇します。

まさに株主還元そのものなのです。

『法人企業統計』によると、資本金10億円以上の上場企業では株主配当が過去最大を記録しており、加えて自社株買いまでもが急増しているわけですから、配当金は上がるは、株価は上昇するは、まさに株主たちにとってはパラダイスです。

一方、派遣社員など非正規雇用は増え、かつ実質賃金も下がりつづけています。

職が安定せず、収入も低いがために、家を買うどころか結婚する機会すら失っている若者は多い。

とりわけ、若い女性が経済難で自殺するケースも増えています。

戦争による死も、経済難による死も、人の死にかわりはありません。

なのに、この国の政治家もメディアも「戦争による死」については騒ぎ立てるくせに「経済難による死」についてはそれほど騒がない。

岸田総理よ、「新しく」なくともいい。

かつて我が国にあった「公益資本主義」を一刻も早く取り戻してほしい。