食糧自衛できない国は「独立国」とは言えない

食糧自衛できない国は「独立国」とは言えない

先日来、申し上げていることではありますが、目下戦争中のロシアとウクライナは世界最大の穀倉地帯です。

主要穀物である小麦、トウモロコシ、大麦などの多くを輸出しています。

しかしながら戦場となっているウクライナでは、港や鉄道など貿易を支えるインフラの多くが破壊されてしまい輸出が滞っているほか、そもそもウクライナ自身が国内向け供給を確保するために一部の穀物を禁輸しています。

仮に戦争が終結したとしても農業生産は引き続き低調なレベルに抑え込まれる可能性は高く、播種期である4月はまさに戦闘状態であったことから来年の穀物供給量はさらに厳しい状況に追い込まれることになるかもしれません。

因みにUNFAO(国連食糧農業機関)は、戦争のためにウクライナの作物エリアの30%が作付けされていないと報告しています。

食糧不安は、またさらに地政学リスクを高めます。

例えば、両国は生産した小麦の約半分を中東や北アフリカの国々に輸出していますが、まだ記憶に新しい「アラブの春(中東・北アフリカ地域での反乱)」は2011年のロシアの小麦不足に派生した「値上げ」の後に起きています。

今回の戦争により穀物、種子油、食用油、肥料など、中東・北アフリカがもっとも必要とする物資の供給が妨げられています。

イエメンやシリアでは長年にわたる内乱と低迷する経済によってもともと食糧難にあり、レバノンでも現地通貨が米ドルに対して急落するほどに経済情勢は悪化しており、過去3年間で1000%以上もインフレ率が上昇しています。

この地域は、もともと政治の混乱、気候変動、水不足等々によって食糧不安がすでに大きな問題をつくりだしていたわけですが、そこへ新型コロナ・パンデミックとウクライナ危機が追い打ちをかけています。

再び中東情勢が悪化するようなことになれば、石油を中東に依存している日本国にとっては食糧安全保障上のみならず、エネルギー安全保障上の面においても深刻な問題です。

ただでさえ、我が国のエネルギー安全保障は脆弱化していますので…

それでも、喫緊の課題は食糧問題です。

実は我が国は食糧のみならず、化学肥料の原料となるリン、アンモニア、カリウムを100%海外に依存しています。

それらの主要供給国はロシア、ベラルーシ、中国です。

日本は主として中国から輸入していますが、中国と並ぶ大生産国のロシア、ベラルーシがこのような状況に陥っておりますので、世界的な供給不足から価格の上昇は避けられず、もしかすると中国は国内需要向けに輸出規制をするかもしれません。

業界筋によると、今年分の化学肥料は現状のストックでなんとかなるらしいのですが、もしかすると来年分の確保は難しいと言われています。

化学肥料なしで農業生産は不可能です。

さて、どうするのでしょうか。

輸入に頼る穀物についても、ウクライナ戦争がはじまる以前からすでに中国の爆買がはじまっており、日本が「買い負け」している状況にありました。

例えば自給率6%の大豆。

我が国は300万トンを輸入していますが、1億300万トンを輸入する中国と比較すると300万トンなど端数に過ぎません。

もしも中国が「もっと買う」と言った場合、日本には売ってくれなくなる可能性が高まります。

実際、日本の輸入量が相対的に小さいために、コンテナ船が日本の港に寄るのを敬遠する場合もあるらしい。

これが「買い負け」です。

このような事態にあるなか、岸田内閣が示している農業政策の目玉は、①輸出農産物5兆円目標と②デジタル農業です。

なんとピントのズレたことか。

食料安全保障の要は、国内の食料自給率(現在、史上最低水準)を高めることにあるはずです。

そのために財政出動を惜しんではならない。