PBという毒矢

PBという毒矢

国民の生命と財産を守り、国民生活を豊かにするための基盤、それこそが「経済力」です。

経済力とは「モノやサービスをつくる力」と言ってもいい。

その全てを外国に依存している国はまちがいなく発展途上国であり、逆に、その全てを外国に依存していない国こそ究極の先進国ですが、むろん、そのような国はこの世には存在しません。

あらゆる国が、究極の発展途上国と究極の先進国の間のいずれかに位置しています。

さて、経済活動を行うには次の5つが必要になります。

①労働(人材)

②生産資産(機械や工場など)

③技術

④資源

⑤需要(市場)

とりわけ、①②③が供給能力の源泉です。

ところが我が国は1990年代以降、「人材は派遣社員、もしくは外国から安い労働力を入れればいい」「工場は人件費の安い外国に移せばいい」「技術なんて外国から買えばいい」とやってきました。

そして、これを加速させたのが新自由主義に基づく緊縮財政と構造改革です。

緊縮財政と構造改革は、⑤需要を収縮させます。

それにより我が国経済は長期にわたってデフレ(需要不足経済)に苦しみ続けています。

デフレはGDPの低迷を招きます。

GDPが低迷するなかで企業が株主利益を最大化しようとすれば、当然のことながら人件費、減価償却費、技術開発費等の諸経費をできるだけ抑制しなければなりません。

だから「人材は派遣社員でいい、もしくは外国から安い労働力を入れればいい」「工場は人件費の安い外国に移せばいい」「技術なんて外国から買えばいい」となったわけです。

むろん、それで儲けた人たちはごく僅かで、圧倒的多数の日本国民は実質賃金が下がり、いわゆる中間所得層は破壊されました。

30代の正規社員の婚姻率が60%を超える一方、非正規社員のそれは20%を下回ります。

このことが我が国の少子化に拍車をかけていることは言うまでもありません。

労働環境の悪化から、国内の過労死件数も年々増えています。

厚労省の過労死労災申請件数をみると、2020年度で2,835人もいます。

それに中間所得層が破壊されると大衆文化も栄えません。

今後は茶道や華道、あるいは日本舞踊などの日本文化を担う人たちが更に減っていくことになるでしょう。

経済力の低迷は、軍事力のみならず、その国の文化力をも衰退させるのです。

デフレとは需要が不足する経済状態ですので、需要(名目GDP)が供給(潜在GDP)を上回れば脱却可能です。

ですが、おカネの価値が上昇していくデフレ期において、民間(企業・家計)にとっては「おカネを使わない」ことが合理的になります。

実質賃金が下がっていく状況で消費や住宅投資を増やす人はおらず、需要(顧客や市場)が拡大しない環境下で設備投資に乗り出す経営者もそうそういない。

ゆえに、デフレギャップを埋める支出、需要を拡大できる存在(経済主体)は、通貨発行権を有する「政府」しかないのでございます。

それを政治的に不可能にしているのがPB黒字化目標です。

PB(プライマリー・バランス)とは、国債発行以外の歳入(税収など)の範囲でしか歳出をしてはならないという考え方です。

このPB黒字化目標という毒矢を突き刺したのが、竹中平蔵氏です。

現在、パソナグループ取締役会長でもあり、オリックス社外取締役でもある彼は、2001年に誕生した小泉内閣の国務大臣に就任し「骨太の方針」なるものを閣議決定、このなかでPB黒字化目標を盛り込んだのです。

この毒矢を、一刻もはやく取り除かねば…