また日本経済新聞が「財政制約」を煽っています。
『経常黒字、22年度は4兆円予測 2年で4分の1に縮小か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA125CZ0S2A510C2000000/
海外との貿易や投資収益の状況を表す経常収支は、今後も黒字の縮小が続きそうだ。財務省が12日発表した2021年度の速報値は12兆6442億円の黒字で、7年ぶりの低水準になった。民間調査機関の予測平均では、22年度は4兆500億円に急減する。16兆円超だった20年度から2年で4分の1に縮む。赤字になれば円安が加速しやすくなるほか、国の財政運営の制約につながりかねない。(後略)』
経常収支とは、①貿易収支、②サービス収支、③第一所得収支(所得収支)、④第二所得収支(経常移転収支)の合計です。
このうち、①貿易収支と②サービス収支の合計が「純輸出」になります。
2021年は、①貿易収支の黒字が縮小し、②サービス収支の赤字が拡大しました。
そのことで、①②③④の合計額である経常収支の黒字が縮小したのは事実です。
しかしながら、経常収支の増減は日本経済全体にとってあまり関係がありません。
なぜなら我が国は世界最大の「対外純資産国」であり、そこからあがる③第一所得収支の黒字額が巨額であるために経常収支は常に黒字です。
因みに、経常収支の黒字国は世界で3割ぐらいしかなく、あとの7割の国は常に赤字です。
ご承知のとおり、世界最大の経常収支赤字国は米国です。
しかも他を圧倒するほどの赤字です。
その米国では、財政運営が制約されているでしょうか。
昨年も我が国と比較にならないほどにコロナ対策として何百兆円規模の国債を発行しています。
なのに日本経済新聞は「経常収支の黒字幅が縮小すると円安になるから国の財政運営は制約される」という強引な論法で不安を煽っているわけです。
とくに「円安になると政府支出を拡大できない…」と言いたいのでしょうが、円安になったところでトヨタは史上最高の利益を稼いでいますし、百歩譲ってそれほどに円安が気に入らないのなら外貨準備を取り崩して円を買えばいいだけの話です。
我が国は世界第2位の外貨準備高を持っていますので簡単な話です。
要するに、経常収支の増減に一喜一憂することなど実に馬鹿げています。
そんなことより、日本経済新聞は貿易赤字がGDP的に何を意味するかを理解しているのでしょうか。
貿易収支の赤字分は、GDPになりません。
例えば、原油や食料などの輸入品が値上がりすることで企業や家計の支出は増えますが、増えた分がGDPにはならない。
それら値上げ分は、日本に輸出した国の所得になります。
要するに、値上がり分が日本国民の所得にならないのでございます。
即ち、これがコストプッシュ・インフレです。
日本銀行も認めているように、今の日本はコストプッシュ・インフレが企業収益を悪化させ家計の可処分所得を減らしています。
当然のことながら、収益が悪化している企業も可処分所得を減らされた国民もともに投資や消費を控えます。
即ち、今の日本はコストプッシュ・インフレそのものがデフレ圧力になっているわけです。
コアコアCPI(食料品やエネルギーを除いた消費者物価指数)がマイナス化しているのもそのためです。
こうしたときに政府が財政制約を設けて歳出を引き締めてしまったら、益々もってデフレ化してしまいます。
にもかかわらず日本経済新聞は、経常収支の黒字額が縮小したことを利用して「円安が進むから政府財政は制約される…」などと頓珍漢なことを言っているのでございます。
どうしても政府におカネを使わせたくない新聞社なのです。
なお、コストプッシュ・インフレは消費税が増税されたのと同じ経済効果をもたらしますので、とくに低所得者層には痛手です。
よって、国民の可処分所得を増やす政策が必要になります。
最も効果的な政策こそが「消費税の廃止」です。
減税では不十分です。