日本のメディアは相変わらずウクライナ危機とロシアの動向に気をとられていますが、我が国をとりまく安全保障環境もまた厳しさを増しています。
とりわけ発生公算が高いとされる『台湾有事』を見据え、自民党では防衛費を対GDP比2%にする案が浮上し議論がはじまっています。
一方、北朝鮮の動向も実に気になるところです。
なぜなら2022年の今年、北朝鮮が突如として危機の引き金を引く可能性が高いからです。
今年は、金正恩総書記の父である金正日の生誕80周年、祖父である金日成の生誕110年にあたり、自身が権力を掌握してから10年の節目にもあたります。
彼の国が節目節目に軍事的挑発行動をとってきたのは周知の事実ですが、とくにシンボリックな2022年はもう既に15発の弾道ミサイルが発射されています。
例えば、3月24日には米国全土と欧州を射程に収めると考えられるICBM(大陸間弾道弾)を試射していますので、国連安保理決議で禁止されているICBMの発射実験や軍事衛星の打ち上げの準備を、北朝鮮が同等のミサイル技術を用いて進める可能性はかなり高いのではないでしょうか。
権力を掌握して以来、金正恩総書記は4回の核実験と130回を超えるミサイル発射実験を繰り返してきました。
その結果、北朝鮮は最大60個の核弾頭を保有することとなり、今や毎年6個の新しい核弾頭を製造するのに充分な核分裂性物質を生産しているという。
金正恩総書記は現在、1基のICBMに複数の核弾頭を搭載することを計画しているようで、その能力はMIRV(複数独立目標弾頭)と呼ばれる技術を有することから、これがもし完成すると、米国のミサイル防衛能力を制約し妨害することが可能となります。
何よりもロシア、中国に次いで、核ミサイルで米国本土を攻撃する能力を有する国の仲間入りを果たすことができるわけです。
そのことはまさに「2022年」という北朝鮮(金正恩体制)にとってシンボリックな年に相応しい快挙です。
それから韓国では尹錫悦新大統領が誕生していますが、これまで北朝鮮は韓国の新大統領が就任するごとに軍事的威嚇を行ってきたこともまたご承知のとおりです。
朴槿恵元大統領が就任した際、北朝鮮は3度目の核実験を行ないましたし、文在寅前大統領が就任した際には6度目の核実験(水爆実験)と3度のICBMの発射実験を実施しています。
さらにはウクライナ危機もまた北朝鮮の挑発行動を後押ししています。
ロシアはもちろんのこと、ウクライナ情勢をめぐって立場的に苦境にたっている中国が、北朝鮮への追加制裁を加える国連決議には同意し難い状況にありますので。
そして、おそらくはこれこそが金正恩総書記の「断固たる決意」を促しているであろうと思われるのは、もしもウクライナが核を保有していればロシアによる侵攻を防げ得たことです。
1994年のブタペスト合意でソビエトから引き継いだ核兵器をウクライナは放棄した。
あのとき放棄せず、未だ核保有国であればロシアによる侵攻を未然に防ぐことができた可能性は高い。
事実、イラクのフセインしかり、リビアのカダフィしかり、核開発を放棄した国は脆弱化し、指導者は権力の座を追われ殺害されるという結末を迎えてきました。
ウクライナ危機をみて、益々もって金正恩総書記は2022年という彼にとってシンボリックな年にこそ、盤石な核プログラムを構築したいと考えたにちがいない。