いま、日本をはじめ各国は、日常の天気予報とはべつに「宇宙」の天気に関する予報や警報の整備を進めています。
例えば「太陽フレア」と呼ばれる太陽の表面の爆発現象が発生すると、高いエネルギーをもつ粒子や放射線が地球に降り注ぎ、様々な被害をもたらすことがしばしばです。
今年2月、米国のスペースX社が打ち上げた人工衛星40基が失われたという発表がありました。
2月3日に打ち上げられたのは通信衛星「スターリンク」49機で、そのうち40機が地磁気嵐の影響によって運用高度へ到達できず大気圏に再突入してしまったらしい。
地磁気嵐なる「宇宙の嵐」の原因とされているのが太陽フレアです。
ちょうどこの時期は太陽活動が活発化していたようで、その影響で地球上空の大気が加熱され膨張し、衛星が受ける抵抗が増したために軌道を外れ落下してしまったと考えられています。
こうした宇宙の天気は他にも様々な悪影響を三段階にわたって地球に及ぼします。
大規模な太陽フレアが発生すると、まず8分後には光の速さでX線など強い電磁波が地球に届きます。
これによって無線通信や放送に障害が起き、カーナビや地図アプリでもおなじみのGPSなど測位衛星の精度が低下するといった影響がではじめます。
続く第2波は30分以上経ってからで、高エネルギーの粒子が地球周辺に到達し、人工衛星が故障するなどのリスクが生じます。
また、宇宙ステーションや国際線の航空機に乗っている人たちは通常よりも多くの放射線を浴びることもあります。
そして第3波は2〜3日後で、電気を帯びたガスなどが地球に到達します。
その結果、人工衛星の軌道が影響を受けるほか、地域によっては停電が発生する恐れもあります。
実際、1989年に発生した大規模な太陽フレアにより、カナダでは約9時間にも及ぶ大停電が起き600万人ちかくが影響を受けています。
なぜ停電が起きるのか。
地球は磁石が南北を指すことで知られているように磁場に包まれています。
そこに太陽からの強い電磁気が降り注ぐと、地上の送電線に大きな電流が流れて電力設備等の故障を引き起こすと考えられています。
カナダでの事例は既に30年前の話ですが、ご承知のとおり現在の社会は、GPSやインターネットなど人工衛星やIT機器への依存度が増していますので被害はより大きくなるとみられます。
もしも今、観測史上最大規模の太陽フレアが発生した場合、その経済損失は1兆ドル以上にのぼるという米国の報告もあります。
日本においても去る4月26日、政府(総務省)の検討会で最悪のケースのシナリオ案が報告されています。
仮に100年から1000年に一度生じるような宇宙天気の悪化が起きると、まず電波状態が極端に悪くなることで携帯電話、放送、警察無線、防災無線も断続的に使用不可となり、様々な公共サービスの維持が困難になるとされました。
また、GDPなどの測位システムの精度が大幅に低下するため、今後は自動運転やドローンの運用が広がれば衝突事故も発生しかねず、交通・物流が滞ることになります。
さらに大気の膨張で多くの人工衛星が落下するほか、送電設備の故障で広域停電が発生し全産業に影響がでる恐れも否定できないとされました。
とはいえ、宇宙の天気をコントロールすることは不可能です。
ゆえに、太陽フレアが発生後に直ちに警報などを出すことができれば被害を最小限に抑制することができると考えられ、既に米国や英国などでは宇宙天気対策の国家戦略を構築しています。
日本でも今、新たな予報・警報の仕組みを総務省が検討していますが、実は国立情報通信研究機構が2019年から24時間体制で宇宙天気の監視を行い、各国と情報共有をしつつ、ある程度の予報なども出してはいます。
出してはいますが、現状には課題も多い。
例えば「太陽フレアがXクラス以上であれば警報を出す…」とかの物理現象に基づいて予報や警報を出してはいるものの、それだけではユーザーが何をどう対応していいのかがよくわかりません。
つまり、現在の予報は基本的に太陽フレアの規模などの物理現象のみを伝える程度ですが、できれば情報利用者はその具体的な影響予測がほしい。
地震予報と同じで、ただ単にマグニチュードの規模だけを知らされても、それだけでは情報利用者は対策のとりようがありません。
その規模のマグニチュードによって何メートルの津波が発生するのか、その津波は何分で到達するのか、あるいは固定していない家具は倒れる恐れがあるのかないのかなどの具体的な影響の予測が求められます。
即ち、太陽フレアの発生後、こうした社会への影響に関する予測を迅速に発信することで、どう被害を防ぐかが問われています。
総務省の検討会は、新たな予報・予測の基準を6月には取りまとめたい、としています。
しかしながら、宇宙天気予報の精度を向上させ、それを実用化していくためには、現在の技術力や情報量ではまだまだ不十分かと思われます。
であるならば、それらを克服するための「ヒト」と「予算」を充分に確保してほしい。
そのことは同時に、コストプッシュ・インフレとデフレを克服することにもつながります。