地政学リスクとエネルギー戦略

地政学リスクとエネルギー戦略

ロシアによるウクライナ侵攻から2ヶ月が過ぎました。

未だ停戦の見込みが立たないうえ、ロシアに対する経済制裁が長期化し世界経済にも深刻な影響を与えています。

とりわけ、他国にエネルギーを依存している国々にとっては、原油や天然ガスが高騰しているためダメージが大きい。

原油や天然ガスの国際価格は、世界経済が新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みから回復に向かう中で一昨年以降上昇を続けていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を機に価格高騰に拍車がかかりました。

例えば原油価格の国際的な指標とされるWTIの先物価格をみますと、先月8日に米国のバイデン政権がロシア産の原油、液化天然ガス、石炭などの輸入を禁止する措置を発表したことで、1バレル120ドルを超える記録的な水準に跳ね上がりました。

その後、中国の石油需要が減る可能性が報道されるなどして、一旦、1バレル95ドルまで下がったものの再び上昇し高値のまま乱高下しています。

一方、天然ガスは一層激しく高騰しました。

原油価格とほぼ同時にヨーロッパのガス価格も最高値を記録し、原油に換算して1バレル400ドルを超える異常な高値をつけています。

石炭も例外ではなかった。

4月7日には、G7(主要7ヶ国)とEUがロシア産の石炭輸入を禁止すると発表したことで急上昇しました。

石炭は火力発電の燃料にもなっているため電力価格の上昇をも招き、いわば同時多発的なエネルギーの高騰を引き起こしています。

むろん、その背景にはロシア産のエネルギー資源が世界市場に占めるシェアの大きさがあります。

原油の輸出量は世界の11%、天然ガスのそれは25%、石炭のそれは18%を占めています。

とくにヨーロッパ諸国はドイツやイタリアをはじめ、ロシアへの依存度が非常に高くなっています。

欧米各国がロシアのエネルギー資源を対象にした制裁をかければロシアの輸出にブレーキがかかり、エネルギー資源の供給不足を招くことになります。

一方、ロシア側が欧米などに対して輸出を制限する対抗措置をとれば供給不足は一層深刻なものとなります。

なおプーチン大統領は非友好国とみなした国への天然ガスの輸出についてルーブル建てでの支払いを要求し、応じなければ供給を停止すると脅しをかけました。

エネルギー問題の専門家たちの間では、「産油国による戦争と禁輸措置が組み合わさった世界的なエネルギー危機」という意味合いで、半世紀前に起きた第四次中東戦争の際の石油危機に似た状況が生まれつつあるという見方もでています。

当然のことながら、エネルギー資源は誰にとっても必要不可欠なものです。

ゆえに価格の高騰が続けば経済へのマイナスの影響を免れない。

企業にとっては経営が、消費者にとっては暮らしが圧迫されます。

エネルギー自給率の低い国、とりわけロシアからの輸入に頼ってきた国では、急にエネルギーを確保できなくなる恐れがあります。

このままエネルギー資源の価格が高騰し続けた場合、短期的には中東産油国の増産や消費国の備蓄放出によって回避できたとしても、長期的にはさらなる省エネ技術の開発、あるいは新たなるエネルギー開発及びその供給ルートの確保等々により対応していかなければエネルギー安全保障は立ち行かない。

なにしろヨーロッパは天然ガスの40%、原油の30%をロシアに依存しています。

ヨーロッパのみならず、多くの国が今回のウクライナ危機によって「エネルギー戦略」の大きな見直しを迫られることになりましょう。

我が国のエネルギー自給率は極めて低く、石油の90%を中東からの輸入に依存しています。

しかも、そのシーレーン(海上輸送路)上には台湾があり、中国が虎視眈々と狙っています。

ひとたび地政学リスクが高まれば、たちまちにしてエネルギー不足に陥ることになります。

ゆえに、エネルギーの調達先の分散化、電源の多様化、省エネ技術の促進等々、エネルギー安全保障の確立が求められます。

第四次中東戦争にともなうオイルショックの際、我が国は省エネ技術の開発と生産性向上にむけた果敢なる投資(支出拡大)によってスタグフレーションを克服しました。

1979年に起きた2度目のオイルショックの際、我が国のインフレ率が跳ね上がらなかったのはそのためです。

果敢なる投資こそがショックへの耐性をつくりあげたことを忘れてはならない。