インフレ率と生産性向上率

インフレ率と生産性向上率

我が国では1991年にバブル経済が崩壊し、1997年からは政府が緊縮財政をはじめたことでデフレ経済に突入しました。

加えて、新自由主義に毒された歴代政権がデフレ化を促す「構造改革」を進めたために、この25年間、物価も賃金も上昇せず、かつ格差を拡大させる深刻な経済状態が続いています。

とにもかくにもデフレ経済は、国を発展途上国化させます。

ところがここにきて、まったく理想的でないかたちでデフレ経済が終わろうとしています。

その最大の要因は、コロナパンデミックとウクライナ危機がもたらしているコストプッシュ・インフレです。

コストプッシュ・インフレとは、何らかの理由によって供給が制約されることで起きる物価上昇のことです。

例えば、①凶作による食料価格の上昇、②疫病による労働力不足が引き起こす賃金の上昇、③自然災害によって供給設備が破壊されモノが作れなくなったために起こる物価の上昇、④関税や禁輸措置による輸入商品の価格の上昇、⑤産油国等の輸出制限や油田の枯渇などによる原油価格の上昇などがコストプッシュ・インフレの要因になります。

リーマンショック以降の長期停滞は世界的にも供給能力を減退させ、コロナパンデミックはサプライチェーンの滞りと就業者不足に追い打ちをかけました。

そこへロシアによるウクライナ侵攻が重なり、供給制約に拍車がかかっています。

デフレに慣れきった日本国民は今後、久々の値上げ経済に翻弄されることになるでしょう。

当然のことながら、実質賃金が上昇していないなかでのコストプッシュ・インフレですので、家計はひっ迫します。

物価の上昇に賃金の伸びがついていけないのですから当然です。

ただ、期待できることもあります。

それはインフレ率の上昇する一方で、日本の経営者たちが供給能力を引き上げるための投資を拡大することです。

上のグラフをご覧のとおり、インフレ率の上昇と生産性向上率は相関関係にあります。

生産性向上こそ、賃金上昇と経済成長の源泉です。

グラフの上部分に一つ、インフレ率が20%を超え、生産性向上率がマイナスに陥っている青点があります。

これは第一次オイルショック(1973年)の影響を受けた翌年(1974年)の数値です。

このときもまた中東の原油価格が高騰したことに伴うコストプッシュ・インフレでした。

輸入原油が高騰したことで減った利益を、企業は短期的な対策として投資削減と人員整理で対応しました。

こうした短期的対応の結果、1974年は生産性が大きく落ち込んだわけです。

さてその後、我が国はどのようにして二度にわたるオイルショックを乗り超えたのでしょうか?

私たちは先人に学ぶことができます。

1974年以降の日本は、官(政府)・民(企業)・労(労働者)が力を合わせて原油に頼らない経済をめざし「省エネ」技術を確立し導入していったのです。

その結果、我が国のエネルギー1単位あたりのGDP規模は世界最大となり、イギリスやアメリカのような酷いスタグフレーションに悩まされることはありませんでした。

ゆえに、1979年に発生した第2次オイルショックによる影響を日本経済は受けていません。

因みに、世界で一番エネルギー効率の悪い国はロシアです。

その理由は二つあります。

まず、やたらと国土が大きいために、ヒトやモノを動かすためにやたらと手間と燃料がかかります。

もう一つが意外な理由で、それはロシアが世界屈指のエネルギー産出国だからです。

黙っていても地中から湯水のごとく石油などのエネルギーが湧き出てくる国では省エネを考える必要がなかったのです。

グローバリズムが終焉した今、これからの我が国は食料やエネルギーという「モノ」をできるだけ国内で生産し、その生産効率を高める必要性があります。

そのための技術を開発するには、政府による補助はもちろん、企業による技術開発投資や設備投資を拡大させていかねばなりません。

もしもそれができなければ、我が国の「発展途上国化」は決定的になります。

国内の生産活動には資源の安定確保が不可欠ですが、手頃な価格でいつでも輸入できるグローバルサプライチェーンはもう存在しないのです。