我が国の電力安全保障は既に崩壊していると言わざるを得ない。
今年の冬、再び電力危機に陥る可能性があります。
政府は火力発電の燃料にもなる石炭についてロシアからの段階的輸入禁止を決めましたが、電気料金への影響が懸念されています。
ご承知のとおり、国内では発電能力が絶対的に不足しており、東京電力管内では今年度冬に電力供給が足りなくなる可能性が高く、安価で安定した電力の供給体制は既に過去のものとなっています。
東電の電気料金(平均的家庭)をみますと、2021年5月の段階で月額6,822円でしたが、来月には月額8,505円にまで上昇する見込みで、過去5年分で最も高くなります。
むろん、ここにきての更なる急騰の原因はウクライナ危機です。
原油は一時、1バレル130ドル台の高値になりました。
天然ガスも先月(3月)、アジアのLNGスポット価格が最高値を更新しました。
石炭もまた過去最高値となっていることから、電気料金の上昇圧力となっています。
そこへロシアからの段階的輸入禁止が追い打ちをかけているわけです。
上のグラフのとおり、現在の我が国の電源構成をみますと、石炭火力が電源の3割を占め天然ガスに次ぐ主力電源です。
石炭の多くはオーストラリア産ですが、次いでロシアからも13%頼っています。
禁輸方針を受け、九州電力などが今年度、他の国から調達するとしています。
こうした動きはヨーロッパでも広がっているため、石炭価格は更に上昇する可能性が大です。
電気料金だけではありません。
他からの調達がうまくいかず必要量が確保できないということになれば、電力需給の逼迫に拍車がかかります。
何度も言いますが、ただでさえ我が国の電力供給体制は脆弱になっています。
先月も東電と東北電力管内に初めて「電力需給ひっ迫警報」が出され、東電管内は大規模停電の一歩手前までいきました。
福島沖の地震で火力発電所が故障していたところに寒波で電力需要が急増したうえ、悪天候で太陽光発電も低下したため電力供給が極端に不足したわけです。
いつも言うように、電気は需要と供給とが常に一致していなければ大規模な停電になってしまうのでございます。
既に我が国は、定期的に電力需給ひっ迫に怯え続けなければならない国になってしまったのです。
先週、経済産業省が発表した今年度の電力需給の予想によりますと、発電所の復旧が遅れるため冬に寒さが厳しくなれば東電管内で電力が不足するという。
電力の安定供給には3%の予備率が必要になりますが、来年1月にマイナス1.7%、2月にマイナス1.5%となることが予測されており、このままでは大規模停電が避けられない状況です。
こうしたなか、ロシア産石炭の禁輸で必要量が確保できなければ、予備率は更に厳しくなります。
とはいえ、需給ひっ迫の背景には、ウクライナ危機以前からの構造的課題があります。
むろんそこには、新自由主義に基づく電力自由化、発送電分離、災害ショックを利用した太陽光発電などの再生可能エネルギーへの極端なシフト化等々、明らかなる政策の誤りがありました。
例えば、太陽光発電はこの10年で20倍以上と急拡大しましたが、天候に左右されやすく東電管内では晴れる日は1800万キロワットを発電するものの、曇りや雨などの悪天候ではほとんど発電しません。
また、夜間も発電できないため、その不足分を補う役割を火力発電所が担ってきたわけです。
しかしながら、太陽光が増える日中は出力を落とす必要があり、その結果として採算が悪化しています。
そこへ電力自由化による弊害も相まって競争が激化しているために、古い火力発電所を中心に休止・廃止せざる得ない状況に追い込まれています。
現に、毎年200万から400万キロワット能力(大型発電所2~4基分)の発電所が休止・廃止されており、いざというときの電力の供給余力が喪失されています。
にもかかわらず、未だ新自由主義に洗脳されている議員も国民も多い。
エネルギーであれ、食料であれ、国防であれ、安全保障の根本はいざというときのための余力(redundancy)です。
新自由主義は、この大切な「余力」のことを「無駄」と呼ぶ。