ただでさえ資源や食料価格が世界的に高騰していたなか、ロシアによるウクライナ侵攻がさらに拍車をかけ、エネルギーや食料など商品市況の先行きはますます不透明になっています。
そのうえ、ここのところの円安が市場関係者の大きな関心事となっているようです。
ご承知のとおり、デマンドプルインフレとコストプッシュインフレが同時に発生している米国では早々にFRB(米国の中央銀行)が利上げに踏み切りました。
一方、コストプッシュインフレに襲われつつも未だデフレという異常な経済を脱却できない日本では、日銀(中央銀行)が低金利政策(短期マイナス、長期ゼロ)を継続しています。
というか、継続せざるを得ない。
即ち現在の円安は、日米金利差による円安を見越した「円売り」の結果です。
懸念されるのは、さらに円安が進むと我が国でもインフレへの批判が高まり「財政を引き締めて利上げしろ…」という声が高まってくることです。
ただでさえ財政は引き締まっているのに更に引き締めてしまったら益々もって経済はデフレ化してしまいますし、デフレを脱却しないままに利上げに踏み切った場合、経済を下支えしている信用サイクル(金融機関の貸出態度)は崩壊し、我が国の経済再生のシナリオは瞬時にして露と消え失せることになります。
なので、コストプッシュインフレ下ではあるものの、なおもってデフレ脱却のための財政支出の拡大こそが求められます。
為替市場では確かに円安が進んでいるのかもしれませんが、デフレ経済が続いている以上、国内経済においては貨幣価値が高まりすぎている状況にあるのでございます。
わかりにくい話かもしれませんが、事実です。
貨幣価値の高まりとは、要するに通貨量の不足を意味するわけですから、経済政策として求められるのは通貨量の拡大です。
ここでいう通貨とは、「現金」というより「銀行預金」のことです。
実は、世に出回っている通貨のほとんどは銀行預金であって現金ではありません。
そこでポイントとなるのは、コストプッシュインフレは通貨量(預金量)を拡大しませんが、デマンドプルインフレは通貨量を拡大するという点です。
なぜなら、預金という通貨(日本円)は銀行の貸出しによって創造されるからです。
貸付資金説(集めた預金の又貸し説)は嘘です。
まず先に企業が銀行からおカネを借りたいという「需要」があって、それに対して銀行が貸出しを行うことで預金という通貨が創造されます。
つまり、貨幣量の拡大が需要をつくるのではなく、需要の拡大(デマンドプル)こそが貨幣量を拡大するということです。
では、企業が「おカネを借りたい!」と望むときってどんなときでしょうか。
むろん需要(仕事)がたくさん見込めたときです。
よって日銀が金融緩和を継続したところで、政府が財政支出を拡大し需要(企業の仕事)を創出しないかぎり通貨供給量は増えずデフレ経済を克服することはできないのでございます。
加えて、需要の創造先が投資(インフラ投資、設備投資、技術開発投資、人材投資)に向かえば向かうほど、そのことがコストプッシュインフレの克服にもつながります。
マスメディアは2種類あるインフレについて何らの説明もなく、たんに「インフレがぁ~」と報道しているため、誤ったメッセージを国民世論に植え付けてしまう可能性があります。