貧困化が止まらない

貧困化が止まらない

労働者が雇用主から実際に受け取った給与のことを「名目賃金」といいます。

どんなに名目賃金が増えようとも、インフレ率(物価上昇率)がそれ以上に上昇してしまった場合、その人が実際に使えるおカネは目減りしていることになります。

ゆえに、労働者が手にした給与の実質的な価値をみる際には、インフレ率の影響を差し引かねばなりません。

インフレ率の影響を差し引いた給与のことを「実質賃金」という。

むろん実質賃金の安定的な上昇は労働者の豊かさを高めることとなり、逆に低下すればそれ即ち貧困化です。

厚生労働省が発表している実質賃金指数の推移をみますと、我が国の実質賃金は上記のグラフのとおり1997年をピークにひたすら下降するばかりです。

1997年がピークであることの理由は明白です。

この年は消費税の税率が3%から5%へと引き上げられるなど、いわゆる緊縮財政(恒常的な歳出削減)がはじまり、日本経済がデフレ(総需要の不足経済)に突入したからです。

以来、米国のITバブルや住宅バブルなどの外需による需要の底上げがあった時期を除けば、日本経済は常に総需要の不足状態が続いています。

残念ながら、これまでデフレ脱却に成功した内閣は存在しません。

例えば2012年12月に誕生した安倍政権は高々と「デフレ脱却」を宣言したものの、政策が伴わず失敗。

現在の菅内閣はその失敗の延長にいます。

詰まるところ、今の菅政権も前の安倍政権も共にデフレ対策について「デフレは貨幣現象である」と間違った認識をもっていることが大問題です。

デフレは貨幣現象だ、という間違った認識に立ってしまうと「日銀がおカネを発行すればデフレ脱却できる」という間違った結論に至ります。

これが、いわゆるリフレ派理論です。

政府は日銀が日銀当座預金という貨幣を発行すればできると誤解したうえで財務省主導の緊縮路線を突き進みました。

その結果どうなったでしょうか。

円安によって輸入価格は上昇、そして消費税増税によって物価は強制的にプラス圏内で推移したものの肝心の総需要(消費と投資)は増えませんでした。

実質賃金のマイナスが続いているのはそのためです。

因みに、名目賃金とは名目値で見た所得のことですが、名目値で見た所得の総計のことを名目GDPともいいます。

GDPは「生産の合計=所得の合計=需要の合計」ですので、需要が不足するデフレ経済とは「名目所得の合計値が足りない」経済ともいえます。(GDP三面等価の原則)

ゆえに民間部門の投資意欲や消費意欲の乏しいデフレ期だからこそ、政府が総需要の不足を財政政策で埋めるほかないわけです。

むろん名目値で所得が上昇したとしても、企業の労働分配率が低迷したままでは労働者(生産者)の名目賃金は上昇しません。

労働分配率は実質賃金を決める重要要素の一つなのでございます。

そして労働分配率を低迷させたのものが「グローバリズム思想」と「構造改革」であったことは言うまでもありません。

まずは、政府による需要創出によってデフレを脱却し労働者一人あたりの所得を高める。

併せて「逆・構造改革」によって労働分配率を引き上げる。

この二つが実現してはじめて実質賃金が底をうって上昇しはじめることになります。リフレ派理論に基づき、どれだけ日銀が日銀当座預金というおカネを発行しようとも、政府がプライマリーバランス黒字化目標を堅持して緊縮路線を進むかぎり国民の貧困化は止まらない。