本日も、経済と地政学リスクは密接不可分の関係にあるという話になります。
4月4日、気候変動に関する政府間パネル『IPCC』(国連機関の一つ)が最新の報告書を発表しました。
むろん報告書の内容は「気候変動対策を直ちに強化せよ」と呼びかけるもので、「このままでは今世紀末の温度は3.2度も上昇する。よって2025年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少させる必要がある」と指摘しています。
IPCCについてはデータの改ざん問題があったりして、巷には「温暖化問題は環境ビジネスための偽情報だ」と言うものさえいます。
事の真偽は別にして、あるいは理由や根拠がなんであれ、現実として世界が脱炭素化にむかうのは間違いのないことでしょう。
1970年代の石油危機の際、我が国は中東原油への依存率を引き下げるために「石炭」「原子力」「天然ガス」の利用を拡大させ、1973年の段階で49.4%あった原油依存率を1989年には39.7%にまで低下させました。
即ち、一定程度のエネルギー依存を「石炭・エネルギー・ガス」へとシフトさせたわけです。
それと同じように、今後の国際社会ではIPCCが求める「脱炭素」化を進めるために、あるいはウクライナへ軍事侵攻したことに伴う「脱ロシア」化を進めるために、「非化石燃料」の活用促進にむけて大きく舵が切られることになるはずです。
それにしても世の中は実に皮肉なものです。
ヨーロッパ各国は脱炭素化を強力に進めるために再生可能エネルギーへの依存度を高めてきたわけですが、再生可能エネルギーではベース電源にはならないがゆえに天然ガスなどの一次エネルギーについてはロシアへの依存度を高めてきました。
そのことが、ロシア(プーチン大統領)に「一次エネルギーをロシアに依存している以上、ロシアに対して強い制裁にでることはできないであろう…」という判断に至らせ、ウクライナ侵攻を促してしまった可能性は否めません。
脱炭素社会は一日にして成らず…なわけですから、安定的な脱炭素が達成されるまでのエネルギー確保が大きな課題となります。
もしも脱ロシア化の流れの中でロシア産原油を避けるのであれば、それを補うための新たな原油供給源が必要になります。
例えば米国、ノルウェー、カナダなど西側資源国の原油生産量の拡大が必要となりますが、これを実現するにはCOP26で禁止されている化石燃料の上流部門投資を解禁しなければなりません。
そのようなことが可能なのでしょうか。
ゆえにもう一つの手段は、中東産油国の増産です。
しかしこれにも、中東の影響力が増大することによる地政学リスクがつきまといます。
因みに「脱炭素が進んでいくのだから原油はいらないでしょっ…」と言う意見もありましょうが、そういう話にはなりません。
なぜなら脱炭素のKeyとなってくる水素やアンモニアなどは、コスト的にも技術的にも原油やガスから作らざるを得ないからです。
こう考えますと、脱炭素を実現するまでの道のりには多くの課題と障壁があり、国際社会は脱炭素化に伴う地政学リスクの高まりを覚悟しなければならないようです。
それからもう一つ、脱炭素を進めるために必要な資源は何であるか考えねばなりません。
例えば、バッテリーに使う材料、風力発電や太陽光のセルなどの一大生産国は中国です。
今回のロシア問題もそうですが、一つの資源を特定の国や地域に依存してしまうこと自体に大きなリスクがあります。
現在でも日本で使われている太陽光パネルの多くは中国製です。
つまり再生可能エネルギーに依存するということは、結果として中国に依存するということになります。
さらには、米中対立や脱炭素化の流れの中で設備投資やインフラ投資が加速しています。(むろん、日本以外で)
その影響も相まって鉱物資源の価格が上昇していますので、再生可能エネルギーで発電するにあたってはコスト面でペイできるかどうかも疑問視されます。
例えば穀物などのバイオ燃料での発電を試みれば、食品価格が上昇します。
要するに、何をつかって脱炭素を実現するのかの選択が極めて困難なのでございます。
安全保障を考える上においても、エネルギー問題は実に悩ましい問題です。