日本ユニセフによると、2017年時点で世界の約22億人が安全に管理された飲み水を使用できていない状況にあるという。
常に安全な水にありつける私たち日本国民にとっては縁遠い話のように感じますが、実は私たちにとっても食糧危機や国家間紛争の要因にもなりかねない極めて根深い問題です。よく「地球は水資源に恵まれている」と言われています。
たしかに地球の3分の2は海です。
ただ、当然のことながら海の水は塩水で、淡水となるとわずか2.5%程度しかありません。
その淡水の大部分は南極や北極地域などの氷や氷河として存在しているために、地下水や河川、湖沼などの水として存在する淡水の量は地球全体の水の約0.8%に過ぎない。
その約0.8%の大部分は地下水であるため、河川や湖沼などの人が利用しやすい状態で存在する水に限ると、その量は約0.01%となります。
要するに、地球は水資源に恵まれてはいますが、人間が淡水として利用できるのはほんのわずかにすぎないのでございます。
生きていく上で欠かすことのできない水ですが、人間が利用できる水は均等にあるわけではありません。
水源に恵まれている地域とそうでない地域の格差は大きい。
ゆえに今、水をめぐる様々な問題が顕在化しています。
国土全体において水道水を安全に飲める国は日本を含めわずか15ヶ国しかないと言われています。
即ち世界の国のほとんどが、①水資源が乏しい国、②乏しくなくとも安全な水道水を作ることが技術的に不可能な国、③安全な水道水を持続させることが困難な国のどれかです。
蛇口をひねるだけできれいで衛生的な水が出て、それをそのまま飲むことのできる、しかも美味しく飲むことのできる日本国民は非常に恵まれた状態にあることがわかります。
ユニセフが作成した世界の気候変動と水問題の報告書によれば、2040年までに世界の子供の4人に一人にあたる約6億人が極端に水源の少ない地域で暮らすことになるとされています。
即ち、水の需要が再生可能な水の供給を上回っているという状態です。
地球温暖化に伴う気候変動の結果として引き起こされる干ばつや洪水により使用できる水資源が減少していることのほか、あるいは人口増加、工業化、都市化なども水の需要を高めている要因とされています。
米国がまとめた水資源に関する報告書においても、世界の水需要は人口増加や経済発展などで30年には現在よりも30%増加するとされており、地域としては北アフリカや中東、南アジアなどで水不足が深刻化する恐れがあると指摘しています。
水不足になると、例えば水力発電を行うことが難しくなるため、エネルギー問題にも発展すると考えられています。
20世紀の二つの世界大戦、とりわけ第二次世界大戦(我が国にとっては大東亜戦争)が勃発した最大の要因が石油などのエネルギー問題にあったことは周知のとおりです。
おそらく21世紀は、水資源をめぐって国家間の対立や金曜、紛争や武力衝突の可能性が高まることでしょう。
一方、水不足は食糧不足にも直結します。
それはバーチャルウォーターで考えると解りやすい。
バーチャルウォーターとは、食糧を輸入している国(消費国)において、もしもその輸入食糧を生産するとしたら、どの程度の水が必要になるのかを推定したものです。
例えば、1キロのトウモロコシを生産するには、灌漑用水として1800リットルの水が必要です。
また、牛はこうした穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1キロを生産するには、その約20,000倍もの水(2万リットルの水)が必要になるという計算になります。
つまりは、米国から1キロの牛肉を輸入する場合、2万リットルの水をも輸入しているのと同じだ、というわけです。
日本は川から水をひいて稲作を行っていますが、川の水ではなく地下水を汲み上げて作物を育てている国もあります。
そのような地下水を汲み上げて育った作物が、世界の食糧生産量の半分を占めていると言われています。
こうしたスタイルの農業によって、地下水の過剰な汲み上げが行われており、帯水層と呼ばれる地下の貯水総の水量が急速に減少しているらしい。
もっとも地下水の水位低下は農業用水として使われていることに加え、都市部地面がアスファルトやコンクリートに覆われたことによって雨が地下に染み渡ることなく海へ放出されることも要因の一つのようです。
このままいけば今世紀半ばには、インド、パキスタン、ヨーロッパ南部、米国西部の広い範囲で帯水層が枯渇する可能性があり、もしそうなれば食糧生産に与える影響は甚大です。
こうした食糧生産に関わる水が枯渇してしまえば、たちまち食糧不足に陥ることは必至です。
よく知られているように、日本の食料自給率はカロリーベースで40%となっており、60%は海外からの輸入に頼っています。
ゆえに世界での食料生産量の低下は日本社会にも直結する問題です。
世界的にも人口が増加しており、そえを賄えるだけの食糧を生産できるのかという課題に直面しています。
であるからこそ、こんご我が国は水(飲み水)の供給能力を維持し高めていかなければなりません。
さて、米国ワシントンにCSIS(戦略国際問題研究所)というシンクタンクがあるのをご存知でしょうか。
このCSISこそ、日本に対しネオリベラリズム(新自由主義)に基づく「構造改革」を工作してきた有名な機関です。
例えば「構造改革」という言葉もCSISの造語です。
知らず知らずのうちにCSISに工作洗脳されてしまった無知な政治家やマスコミらは無邪気になって「日本には構造改革が必要だぁ」と叫び続けてきたことで、現に我が国の政治は平成の30年間にわたって「構造改革」、とりわけ規制緩和に明け暮れました。
時代は令和に移り変わっても、その流れは止まっていません。
おかげで日本は、20年以上にもわたって国民はデフレ経済で貧困化し、国家としても発展途上国化し国防すら危うくなっている始末です。
因みに、小泉進次郎環境大臣がCSISの元職員であったことは意外と知られていない。
なお2013年4月、このCSIS主催のイベントの席で、当時の麻生太郎副総理(現・財務大臣)は次のように発言されています。
「世界中のほとんどの国では、プライベート(民間)の会社が水道を運営しているが、日本では自治体以外では、この水道を扱うことができない。水道料金の回収が99.9%というようなシステムを持っている国は日本の水道会社以外にはないけれど、この水道は全て国営もしくは市営、町営でできていて、こういったものを全て…民営化します」
もともとこの政治家に、およそ知性というものを感じたことはないけれど、ここまでくると救いがたい。
なんとその同日、日本政府はEUと「経済連携協定」の交渉をはじめています。
ご承知のとおり、この協定には、公共事業に外資が一気に参入できる仕掛けが埋め込まれています。
朝日新聞のお馴染みのセリフじゃないけれど「ちょっと待ってほしい…」
世界では水道事業の民営化に踏み切った多くの国が、いったんは民営化したものの再び公営に戻しています。
2000年から2015年の間に、世界37カ国235都市が、一度は民営化したのですが、これらの国や都市は悉く水道事業を再び公営化しています。
竹中何某のように民営化推進論者たちは口を揃えて「民営化することが国民の利益だ」みたいに言っていましたが現実はまったくのウソで、民営化によって人件費とメンテナンスが削減され、むしろ水道料金は高騰し、クオリティも低下しました。
利益を拡大したのは、民間会社の株主と経営者たちだけです。
そこで慌てて、世界は再公営化に向かっているわけです。
ところが、いったん民営化したものを再び公営化するのは容易ではありません。
例えば、再民営化のために一度結んだ契約を解除すれば「得られるはずの利益を侵害された」として企業から訴えられることになります。
再公営化を申し出た米国インディアナ州などは、約29億円の違約金を支払わされています。
むろん実際に支払うのはインディアナ州の納税者です。
こうしたなか、水道事業の再公営化という世界的潮流のなか、流れに抗うように日本だけが愚かにも民営化に進んでいます。
2018年には、企業に公共水道の運営権をもたせるPFI法を促進する法律、及び水道事業を民営化できる改正水道法がそれぞれ成立しています。
なんどでも言います。
世界では今、21億人(世界人口10人中3人)が安全な水を手に入れられず、45億人(10人中6人)が安全に管理されたトイレさえ使えていません。
冒頭、「世界で蛇口の水を飲むことのできる国は15ヶ国しかない」と述べましたが、アジアで水道水を飲むことのできる国は日本とUAE(アラブ首長国連邦)の二カ国だけです。
21世紀は「石油」ではなく「水」をめぐって戦争が勃発する時代と言われているなか、我が国では国民の生命にかかわる「水」が、外資を含めた民間ビジネスの対象にされつつあるのです。
川崎市などは「経費削減」という、これまたネオリベ的な発想で生田浄水場を廃止し「水」の供給能力をダウンサイジングしてしまいました。
国から各地方自治体に至るまで、世界的な趨勢と現実がまったく見えていない我が国の「政治」なのでございます。
絶対に水道事業を民間ビジネスに委ねてはならない。