『まん延防止等重点措置』が21日に全面解除され行動制限は撤廃、経済活動の再開に向けた機運が高まりつつありますが、依然として内需は弱く経済情勢は厳しい。
にもかかわらず、悪質にも日本のメディアらはインフレ懸念を強調しています。
例えば日本経済新聞などは「ウクライナ侵攻を契機にした資源高もあってインフレが加速し、所得の伸びを大きく上回りそうだ」と記事にしています。
物価の上昇率が所得の伸びを上回ることを「実質賃金の低下」と言いますが、残念ながら資源高になる以前から(1998年以来)、我が国の実質賃金は下がりに下がり続けています。
むろん、その理由は政府が財政支出の拡大を拒みデフレ経済を放置しているからですが…
さて、資源高に伴う物価上昇は「コストプッシュ・インフレ」と呼ばれ、一方、個人消費の拡大などGDPが拡大することに伴って物価が上昇することを「デマンドプル・インフレ」と呼びます。
現在の米国ではこの2つのインフレが同時に発生していますが、日本の場合は明らかに輸入物価の高騰に伴う「コストプッシュ・インフレ」です。
そのことは上のグラフが証明しています。
生鮮食品を除いた物価である「コアCPI」はプラス0.6%ですが(それでも、たったの0.6です)、エネルギーと生鮮食品を除いた「コアコアCPI」はマイナス1.8%にまで落ち込んでいます。
どうみてもデマンドプル・インフレではありません。
コストプッシュ・インフレは、地政学リスクによる原油価格の高騰のほか、金融危機、自然災害、気候変動、食糧危機などにより、結果として供給能力が需要に追いつかなくなって生じる物価上昇ですが、日本の場合は米国よりももっと質(たち)が悪くコストプッシュ・インフレとデフレーションが同時進行しています。
これへの適切な対処は供給能力を高めるほかありません。
まちがっても、需要を減退させることで需給バランスを均衡させる、という愚を犯してはならない。
因みに主流派経済学には「インフレ率が上昇したら財政を引き締める」というテンプレートがありますが、前述のとおりインフレ率には様々あり、その変動要因も様々です。
けっして思考停止に陥ってはならない。
懸念されるのは、日本経済新聞みたいに「たった0.6%の物価上昇」を「インフレの加速」と喧伝して政府支出の拡大を阻止しようとする動きです。
それにより国民世論が再び「政府支出の削減を…」「財政規律を重視しろ…」に染まり、そうした世論に迎合する政治家たちが「やっぱり収支均衡が大事だぁ~」となって、悪習にもどり国債発行と財政支出が抑制されてしまうことが最も恐ろしい。
コストプッシュ・インフレを克服するためには、どうしても一時的にインフレ率が上昇(悪化)します。
なぜなら供給能力を高めるための各種投資(公共投資や民間設備投資など)は、GDP(需要)にカウントされるからです。
当然のことなら生産設備やインフラは一夜にして完成はせず、どうしても2~5年、あるいは5~10年の期間を要します。
それまでの間、インフレ率の上昇に耐えなければなりません。
とはいえ、日本の内需は根本的にデフレ経済が続いておりますので、投資需要を拡大し続けても米国ほどのインフレ(コストプッシュ・インフレ)率上昇を招くことはないはずです。
つまり今の日本には、米国以上の財政出動が求められます。
何度でも言います。
コストプッシュ・インフレを克服する手段は積極財政しかありません。