食料自給率は統計開始以来の最低を更新

食料自給率は統計開始以来の最低を更新

食料安全保障を外国に委ねる国は、もはや主権国家とは言えない。

今国会で行われた岸田総理の施政方針演説には「経済安全保障」という言葉は出てきたものの、「食料安全保障」や「食料自給率」という言葉は一つもありませんでした。

にもかかわらず岸田政権は「1兆円を超えた農産物輸出を5兆円に伸ばすぞ…」というアドバルーンを上げ、それを農業政策の柱に据えています。

なにげに「農産物の輸出額が1兆円を超えた…」と自慢しているわけですが、1兆円というのは実は粉飾で、その中身のほとんどは輸入原料を使った加工食品であり、本当に国産の農産物といえる輸出は1000億円にも満たない。

ゆえに「5兆円目標」なるものがいかに滑稽で空虚なものかがわかります。

いま政府がやるべきことは、農産物の国内生産力を強化することに尽きます。

与党や農林水産省にも食料安全保障の検討会が立ち上げられているようですが、そこでは「当面の飼料や肥料原料を何とか調達するためにどうするか…」という程度の議論ばかりが優先され、「いかにして国内生産能力を強化するのか…」という根本的な議論には至っていません。

何度でも言います。

いま突きつけられている現実は、食料、種、肥料、飼料などを海外に過度に依存していては国民の命を守れないということなのでございます。

それなのに「貿易自由化を進め調達先を増やすのが経済安全保障である…」というような愚かなる議論が平然と行われているわけです。

根幹となる長期的・総合的な視点が完全に欠落している、と言わざるを得ません。

例えば、国内の食料生産を維持することは、短期的には輸入農産物より高コストとなるかもしれませんが、飢餓を招きかねないような「不測の事態」の計り知れないコストを考慮すれば総合的なコストは低くなるわけです。

その「不測の事態」は、すぐそこまで迫っています。

そうしたなか、「自由貿易が大事だぁ~」などと言って狭い視野での経済効率だけを求め市場競争に任せるようなことをすれば、人の命や健康に関わる安全性のためのコストは切り詰められることになります。

とりわけ我が国のように、すでに食料自給率が37%(カロリーベース)にまで低下している中で食料の量的確保についての安全保障が崩れてしまうと、安全性に不安があっても輸入に頼らざるを得なくなります。

つまり、量の安全保障と同時に質の安全保障も崩される事態を招いてしまうわけです。

高村光太郎は「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」と述べています。

米国のジョージ・W・ブッシュ元大統領もまた「穀物を外国に依存する国家は独立国とは言えない」と大統領時代に発言しています。

2020年度の時点での食料自給率が37.17%となり、統計開始以降の最低を更新した日本は、はたして独立国と言えるのでしょうか。