ウクライナには、かつてロシアとウクライナ双方の起源であるキエフ公国がありました。
およそ200年にも及ぶモンゴル帝国支配を経てウクライナはポーランド領となり、やがて勃興してきたロシアにウクライナ東部が呑み込まれロシア人が移住してきます。
19世紀後半には、ポーランドごと全ウクライナがロシア領になり、ウクライナが国家として独立したのはソ連が崩壊した1991年のことです。
地形的にも、ウクライナ周辺には山脈や大河川などの明確な自然国境は存在していません。
そんな地域なので、民族分布と国境が一致したことがない。
四方を海に囲われ、温暖湿潤の気候で食料も豊富、そして一つの王朝、一つの言語、一つの民族、一つの宗教(神仏儒習合)によって独自の歴史と文化を形成してきた私ども日本人にはとって、民族分布と国境が一致しない地域で生きていくことの過酷さはなかなか理解し難い。
ウクライナ東部ではロシア系の住民が多く、西部ではポーランドと同じカトリック教徒もいたわけですが、旧ソ連時代にはウクライナ全域にロシア語を浸透させます。
もともとロシア語とウクライナ語は、東スラヴ語族なのでかなり近いのでそれが可能だったのだと推察します。
要するにロシア人とウクライナ人は、同国人になるには差異が有りすぎて、完全に他国人と思うには共通点が多すぎる、という皮肉な関係でもあります。
基本的に、現在の私たちが目にし耳にしているテレビメディアの情報は英米を中心にした西側陣営のバイアスがかかっています。
そこで、事の本質を見誤らないようにあえてロシアの立場になって考えてみようと思うのですが、ご承知のとおりロシアにとってウクライナは軍事的、地政学的に重要なエリアです。
いわゆる「核心的利益」そのものです。
クリミア半島には黒海への出入り口となる軍港(セヴァストーポリ)があり、肥沃な黒土地帯には小麦の大産地があるため食料の自給という点でも重要性が高く、鉄鋼石も多く採れます。
何よりもウクライナにNATOのミサイル基地やレーダーが建つのと、そこにロシアのミサイル基地やレーダーが建つのとでは、安全保障地図ががらりと変わってしまいます。
それだけにNATO側はウクライナをロシアから引き離し、できるだけロシアをユーラシア大陸の奥地に封じ込めたい。
封じ込まれないように、ロシアもまた必死なわけです。
それでも、もしも米国がソ連崩壊時の約束(ウクライナのNATO非加盟)を守り、ウクライナを双方の緩衝地帯にしていれば、今回のようにロシア(プーチン大統領)がウクライナを侵攻することはなかったと思います。
侵攻した以上、プーチン大統領はウクライナに親露政権を樹立しNATOの東方拡大を阻止するまで突き進むことでしょう。
米国は経済制裁やら情報戦やらを駆使してロシアを封じ込めようとしていますが、こうなると核心的利益を守ろうとするロシアのほうが強い。
米国にとってウクライナは核心的利益ではありませんので、交渉テーブルで最終的に折れるのは、プーチン大統領ではく、どちらかといえば米国のバイデン大統領のほうだと思います。
やがて中国が台湾や尖閣諸島を侵攻したときもまたしかりです。
中国は台湾を「中国の核心的利益だ」と言っていますが、、米国にとって「尖閣諸島」は核心的利益とは言えない。
ゆえに一旦有事がはじまれば、最終的に折れるのは米国のほうかと思われます。
だからこそ、自国の国土は自分たちの手によって守らなければならないのです。