人間は平均して約20~30年ごとに新世代の人類を誕生させているのに対し、微生物は数分から数時間で新世代の株を誕生させています。
ゆえに、変異株との戦いでは人類は常に劣勢に立たされます。
それでも私ども人類は、その知性、科学的ノウハウ、テクノロジーで、急速な変異を遂げる微生物の先を行こうと試みているわけです。
20世紀に発生したパンデミックの一つであるインフルエンザは、多くの人々に呼吸器感染症を引き起こさせ死に至らしめましたが、やがて季節性インフルに変わりました。
あるいは、1918年に発生したスペイン風は世界中で1億人ちかい犠牲者を出したものの、変異とともに軽症化していきました。
しかしながら新型コロナウイルスは、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタと次々に変異を重ね、オミクロンに至っては病原性を弱体化させつつもウイルスブリザード(世界的同時多発感染)を引き起こしています。
オミクロン株のブレイクスルー感染はデルタ株の5倍にも達し、子供への感染も拡大しています。
巷には「新型コロナを季節性インフルエンザ並みの扱いにしろ…」などという意見もありますが、新型コロナパンデミックは未知の事態であるという認識のもと「あらゆる問題の解決策など持ち得ない…」という謙虚さを持つ必要があるのではないでしょうか。
昨年の春、バイデン米大統領は「7月4日は、パンデミック被害から独立する日になるだろう…」という見通しを示しましたが、その後の感染爆発は周知のとおりです。
ワクチンの効果等も発揮してか、例え瞬間的に終息の兆しがみえたとしても、けっして油断してはならないことを示唆しています。
科学的な予想を裏切るウイルス変異は各国の政策立案者と公衆衛生担当者の頭を悩ませており、新型コロナパンデミックをインフルモデルにより対処しようとするのには、どうみても無理があると考えます。
昨年7月4日にコロナ被害からの独立を夢見た米国では、医療従事者の3割ちかくが過酷な職場環境に耐えきれず離職しています。
なお、医療従事者が不足する医療機関では、自身が感染しつつも軽症なら従事する者もいるという。
新型コロナパンデミックの楽観シナリオは、オミクロン株による大規模感染とワクチン接種率の向上により集団免疫が獲得されていくことですが、悲観的なシナリオは変異株が免疫回避能力を向上させ更にバージョンアップしていくことです。
こうしたバージョンアップに対しワクチンでは対応できないとする意見もありますが、変異株による脅威の圧力は、ワクチン接種の重要性を低下させるのではなく、むしろ高めているように思えます。
なぜなら、ウイルスの新たな突然変異が起きる危険性は、無防備な人間集団にこそ広がるものだからです。
できるだけ多くの人々をワクチンにより感染から守ることができれば、次なる危険な変異株の出現を抑え込む可能性も高まるはずです。
ただ、ワクチンについては偏向したメディア環境のなかで不当な論争の対象とされてきました。
ソーシャルメディアでは「ワクチンは人口を管理するための陰謀だ」という情報さえ流布しています。
1960~70年代の世界的な天然痘撲滅プログラム以降、ワクチンは悪辣な外国勢力のスキームとみなす勢力がいるのはよく知られていることです。
先日も「ポリオワクチンが不妊の原因になる」という噂ゆえに、ポリオワクチン接種プログラムの関係者がパキスタンで殺害されるという痛ましい事件が発生しています。
むろん、ワクチンはパンデミック終息への特効薬ではありませんが、少なくとも終息させるための有力な手段の一つであると考えます。
行政は、ワクチンによって達成できること、達成できないこと、その性質と取り扱い方、治験の結果等々、接種勧奨にあたってはメッセージの再調整が求められます。