緊張の続くウクライナ情勢ですが、プーチン大統領がウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受けて、きのうバイデン大統領は「ロシアがウクライナ侵攻を開始した」との見方を示し、ロシアに対する制裁措置を発表しました。
具体的には、まずロシアのソブリン債に対する制裁を科すらしい。
つまり、ロシア政府が欧米から資金を調達できなくするわけです。
ほか、ロシア政府系の開発対外経済銀行やエリート層にも制裁が科されるとのことです。
米国のみならず、同時に英欧もまた経済制裁を発表しています。
とはいえ、この種の限定的な経済制裁の効果については甚だ疑問符がつきます。
例えば、2014年のロシアによるクリミア強奪以来、ロシアに対して行ってきた数々の経済制裁にほとんど効果がなかったからこそ、今なおロシアは地政学的野心を旺盛にしているのではないでしょうか。
包括的な経済制裁ならまだしも、限定的では…
プーチン大統領の地政学的野心を挫き政策変更を強いることが最大の目的だったとすれば、これまでの経済制裁は完全に失敗だったと言わざるを得ないと思います。
現にロシアはウクライナから手を引いていないし、引くどころか更にエスカレートしているわけですから。
因みに大東亜戦争に突入せざるを得なくなった日本のように、経済制裁はむしろ相手に解決手段としての武力行使を誘発させる効果さえあります。
米、英、欧の経済制裁が限定的にならざるを得ない理由は様々ありますが、米国がもはや軍事と経済で一極秩序を構築可能にする覇権国ではなくなってしまったことが何よりも大きい。
米国はこれまでグローバリズム(新自由主義の世界化)の主導者として世界に君臨してきたわけですが、皮肉にもその新自由主義によって自国の社会は分断され、軍事力と経済力を衰退させてしまいました。
古代ローマ帝国による一極秩序が終焉したのち、その版図は中小の封建領主が乱立する不安定な社会とになりました。
結果、各地域で紛争が多発することが常態化した「中世」に突入したわけです。
米国による一極秩序が終焉したのですから、世界は再び紛争多き「中世」を迎えることになります。
米国が覇権国としての力を失うことが必然だったにしろ蓋然だったにしろ、米国が行うべきだったのは、何よりもヨーロッパのロシアエネルギーへの依存率を低下させることだったと思います。
ご承知のとおり、ヨーロッパは石油需要の3分の1をロシアに依存しており、天然ガスのパイプラインは悉くロシアから来ています。
なかでも依存度が高いのはドイツです。
ロシアを起点にバルト海を横断してドイツに至るパイプライン「ノルドストリーム2」が計画されているほどです。
今回のウクライナ危機によってドイツのショルツ首相は「ノルドストリーム2の計画を見直す」とプーチン大統領に脅しをかけていますが、どちらかというと困るのは自分たちドイツの側ではないでしょうか。
ともかくも米英欧がどうしてもロシアの西方拡大を阻止したかったのであれば、ウクライナをNATOに引き入れる前に、ヨーロッパのロシアエネルギーへの依存率を引き下げ、ロシア軍の近代化を阻止し、ウクライナへの経済支援を惜しむべきではなかったと思います。