それでも「PDCAサイクル」を強化しようとする行政…

それでも「PDCAサイクル」を強化しようとする行政…

PDCAサイクルというのをご存知でしょうか?

Pは、Plan(計画)

Dは、Do(実行)

Cは、Check(評価)

Aは、Action(改善)

即ち、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をとったもので、品質管理の父とも言われた米国の統計学者、W・エドワーズ・デミングが提唱したフレームワークです。

組織が事業を進めるにあたっては、まずは綿密な計画(P)のもとに実行(D)が為され、その事業を評価検討(C)し改善(A)する。

その改善(A)を基に更に計画(P)を深化させ、その上で再び実行(D)に移し、また評価検討(C)を加える。

その評価検討(C)により再び改善(A)されることで、さらに計画(P)がバージョンアップされる。

これを継続的に繰り返すことを、PDCAサイクルと言います。

W・エドワーズ・デミングがこれを提唱したのは、1950年代のことです。

以来、多くの民間企業がこれを採用しました。

PDCAサイクルを強化することで、社員一人ひとりが組織の歯車としていかにして効率的な業務ミッションを達成することができるかが追求されてきたわけです。

しかしながら、今やPDCAサイクルが大きく見直されています。

その最大の理由は、冒頭のグラフのとおり「不確実性」の高まりです。

IMFのクルスタリナ・ゲオルギエバ専務理事が、2020年2月の自身のブログで「これからは不確実性がニューノーマル(常態)の時代だ」と述べたことは有名です。

現に、不確実性を数値化した『不確実性指数』はここ数年、高まり続けています。

経済、政治、地政学、疫病、自然災害等々、あらゆる分野で不確実性が高まってくると、PDCAサイクルを維持することは実に困難です。

PDCAサイクルの欠点は、何よりもP(計画)やC(評価検討)に長い時間を要することです。

例えば、新型コロナウイルスが問題化する直前まで、日本政府はインバウンド(外国人旅行客)を何千万人単位の規模で受け入れる目標を立て、多くの民間企業がインバウンド需要に依存し、売上高を拡大してきました。

ご承知のとおり、新型コロナの発生によって、インバウンド需要に依存しすぎた企業ほど大きな打撃を受けています。

むろん、新型コロナによる世界的パンデミックを予測できた人などいません。

では、コロナ禍の今、インバウンド・ビジネスをどのようにCheckしてActionするのでしょうか。

CheckしてActionしているあいだに、また新たな不確実性が襲ってくる時代です。

予測不能な事態が次々と襲いかかる不確実性の時代には、そもそもPlanを練ることすら難しいわけです。

大企業を含め、民間企業がPDCAサイクルを見直しはじめた理由はそこにあります。

因みに、新たにANAHDの副会長に就任される平子氏も「PDCAサイクルを社内でよく使っているが、プランが長いことがある」と言及し、意思決定の流れや計画の進め方を見直すことの必要性を説いておられます。

ところが、恐ろしいことに川崎市など地方行政の多くが2000年代になってこのPDCAサイクルを行政運営にも採用しはじめ、未だにPDCAサイクルを重視した行政計画の策定を強化しています。

時代錯誤も甚だしい。

恥ずかしながら川崎市議会においても「PDCAサイクルの重要性」を説き続けている議員がいます。

川崎市などは、ご丁寧に「PDCAサイクルとは何か…」をホームページに掲載してその重要性を説いています。
https://www.ryusuke-m.jp/wp-admin/post.php?post=2334&action=edit

当初は「民間企業に遅れをとるまい」という意気込みで取り入れたPDCAサイクルなのでしょうが、既に民間企業が見直しはじめていることすら知らずに強化しようとしています。

そもそも行政と民間企業とでは追求すべき目的が大きく異るという「行政としての認識」がかくも乏しいところに深刻かつ重大な問題があります。