政府は「国民赤字化目標」を破棄せよ

政府は「国民赤字化目標」を破棄せよ

今月14日、経済財政諮問会議が開かれ、プライマリーバランス(以下、PB)の中長期見通しが示されましたが、黒字化を目指してきた2025年度の収支は高成長を実現すると仮定した場合でも1兆7000億円の赤字になるとの試算でした。

しかし岸田総理はこれを受け「変更が求められる状況にはない」と述べられていましたので、PBを2025年度に黒字化するという財政再建の目標は維持されたわけです。

貨幣とは何かの理解に乏しい人、あるいはマクロ経済を家計簿でしか論じられない人たちは、「財政を再建するなら良いことじゃないの…」と思われていることでしょう。

信じ難いことかもしれませんが、デフレ経済化で政府が財政再建をめざしてしまうと経済は余計にデフレ化し、結局は財政再建など進みません。

それでも敢えてPBを黒字化しようとすると、総需要(消費・投資)が縮小し、国民の所得の合計であるGDPを大幅に引き下げます。

もしもそうなると、とりわけ実質賃金が恐ろしいほどに下がっていき、街には失業者が溢れます。

多数の自殺者が発生することにもなるでしょう。

PB目標とは「政府の国債発行抑制目標」のことです。

ゆえにデフレで企業が貯蓄率を高めるなか、政府までもが貯蓄率を高めることになれば、よほど貿易収支が黒字化(海外の赤字化)しないかぎり経済規模が収縮することは避けられません。

財政赤字とは「政府の歳出 > 政府の歳入」で計算される収支です。

いつも言うように、政府、企業、家計、海外(経常収支)、この4つの経済主体について、一定期間の黒字額と赤字額を総計すると、必ずゼロになります。

これはストックの話ではなく、フロー(一定期間)の話です。

例えば、4主体のなかで、政府だけが赤字になっていたとしましょう。

その場合は、家計、企業、海外の黒字額を総計すると、必ず政府の赤字額と一致します。

あるいは政府と海外が赤字、家計と企業が黒字の場合には…

政府の赤字 + 海外の赤字 = 家計の黒字 + 企業の黒字

…という式が成立します。

ということは、政府がPBを強引に黒字化させた場合、海外がよほどに赤字化しないかぎり、民間部門が黒字化することはほぼ不可能です。

もしも海外が大幅に赤字となった場合、凄まじい貿易摩擦が生じ、貿易相手国との国際関係が悪化することになります。

といって私は、企業の貯蓄率を引き上げろと言っているわけではありません。

企業の貯蓄率がマイナスにならないと企業投資は増えずデフレは解消されません。

なので、企業の貯蓄をマイナス化(設備投資等、企業投資を拡大)させるためにも、政府が財政赤字を拡大させることで総需要を創出してほしい、と主張しています。

何でも言います。

PB黒字化目標とは民間赤字化目標です。

また、財政赤字=民間黒字であるため、政府債務とは「民間の黒字が積み重なったもの」と表現することも可能です。

つまり、岸田総理の前述の発言は「国民を赤字化する目標に変更はない…」と言っているに等しい。

むろん、本人にはそんな認識はないのでしょうけど。

ただただ「財政再建は良いことだろう…」というイメージだけで発言しているはずです。

悲しいかな。