鈴木財務相は、財務省職員への新春のあいさつの中で「国の借金である国債の残高が父の時代と比べ、実に10倍以上の増加になった」と述べ、だから「財政の立て直しが必要不可欠だ」と訴えたという。
父というのは、むろん1980〜82年に総理大臣を務めた鈴木善幸氏のことです。
当時、小学生だった私ですが、今なおよく覚えています。
鈴木善幸さんは大平正芳総理の派閥(宏池会)に属し、大平さんの後継者として鈴木内閣を発足させた人です。
因みに、大平さんは発言する際に、必ず「あ”〜、う”〜」という癖が特徴的であったことから、それをよく学校でモノマネしたものです。
その後、大平さんは現職総理としてお亡くなりになるのですが、総理大臣が死去すると「国葬」が行われるということも、あのときはじめて知りました。
いわゆる「日本のシャッキン問題」が取り沙汰されるようになったのは、つい最近の話ではなく実は大平内閣からだったことをご存知でしょうか。
大平内閣のもとで行われた衆議院総選挙において、大平総理が「私が国民の皆様に、増税をお願いする最後の男でありますっ!」と総裁遊説で有権者に訴えていましたが、そのときの映像もまた私の記憶によく残っています。
当時もまた「日本は財政危機にあるから、ぜひとも一般消費税を導入させてほしい」と訴えたわけです。(言っていることは、今と変わっていません。)
結局、大平総理による「増税のお願い」は国民に受け入れられず、自民党は惨敗しました。
確かこのとき自民党は過半数割れしたと記憶しています。
大平内閣の「一般消費税」は実現できなかったことを受け、その後の鈴木善幸内閣と中曾根康弘内閣は「増税なき財政再建」を掲げて「行政改革」を唱えだしたものの、結局は中曾根内閣時代に再び増税の必要性が説かれるようになります。
中曽根内閣は名前を変えて「売上税」にしたのですが、それも失敗。
結局、中曽根内閣の次に発足した竹下内閣時代になって、ようやく「消費税」が導入されることになったわけです。
この「消費税」が天下の悪税であることは機会を改めて述べますが、とにかく「ニホンはシャッキンでハタンするぅ〜」は大平内閣からの伝統になっています。
鈴木財務相のお父君である鈴木善幸内閣が発足した当時の国債発行残高は、71兆円でした。
一方、2021年度末の国債発行残高は990兆円です。
その差は、10倍以上というより14倍です。
71兆円で「破綻するぅ〜」と言い、今や14倍の990兆円にまで拡大しているにもかかわらず、政府財政が一向に破綻していない現実を鈴木財務相はよく考えたほうがいい。
ついでながら、国債は「国家債務」の略ではなく、国庫債券の略です。
国庫債券とは、即ち国家が発行する貨幣のことです。
つまり、貨幣発行残高が990兆円ですよ、という話に過ぎないのでございます。
「でも、国債は償還や利払いがあるから借金だ」と言う人がいるかもしれない。
そんなに国債の存在が疎ましいのなら、国債を日銀が買い取ればいい。
日銀は日本政府の子会社ですので、日銀が保有した国債について政府は償還や利払いの必要はありません。
償還期間がきたならば、借り換えればいいだけです。
利払いにしても、一応、政府は律儀に日銀保有国債の利払いをしていますが、日銀の決算が終わると「国庫納付金」として戻ってきています。
下のグラフのとおり、既に発行国債の半分ちかくを日銀が保有しています。
なので、事実上の国債発行残高は550兆円程度になりましょうか。
とはいえ、そもそも国債発行残高を減らす必要すらありません。
鈴木財務相の杞憂です。