米国では、バイデン政権が発足後すぐに、コロナ禍の救済計画として1.9兆ドル(約220兆円)の大規模な経済対策が講じられ、さらには約1兆ドル(約116兆円)のインフラ投資計画、さらに1.75兆ドル(約203兆円)の人的資本投資計画が矢継ぎ早に発表されました。
この驚くような積極財政に、さっそく経済学者やメディアらからインフレ(物価上昇)を懸念する声が高まりました。
「そんな勢いで財政支出を拡大したら、インフレになっちゃぅ〜」と、反対する声が上がったわけです。
しかし、バイデン政権は意に介しませんでした。
「需要が供給を上回るインフレ気味の経済を作り出すことこそ、強い米国を取り戻すのだ!」と。
ところがここにきて(12月19日)、与党・民主党中道派のジョー・マンチン上院議員が歳出法案への不支持を明言しています。
米FOXニュースの番組でマンチン上院議員は「(1.75兆ドルの大型歳出法案に関し)出来る限りの努力をしてきたが、この法案には投票できない。ノーだ」と述べており、ガソリン高をはじめインフレへの影響や、財政悪化への懸念を理由に挙げています。
勢力が拮抗している上院(定数100)で法案を通すには、与党全議員の賛成が必要です。
マンチン上院議員の造反により、法案が頓挫する可能性が大きい。
積極財政には、必ず「財政規律がぁ〜」とか、「インフレ率がぁ〜」とかの批判がつきまといます。
今後、日本でもこうした政治問題に直面するのは必定です。
まず財政規律については、いつも言うとおり、自国通貨建てで国債を発行し、為替相場制を採用している日本において破綻(債務不履行)はあり得ません。
ただ、それだけ。
次いでインフレ率については、その物価上昇が「需要過多」に起因しているのか、それとも「コストプッシュ」に起因しているのかがポイントです。
需要過多に起因しているのであれば、それは景気が上向いているがゆえに起きている物価上昇です。
一方、コストプッシュに起因しているのであれば、それは供給が制約されることで起きる物価上昇です。
前者は財政を引き締める必要性がありますが、後者は供給能力を引き上げるための財政支出の拡大(例えばインフラ整備、新エネルギー開発、研究開発や教育などに対する積極財政など)が必要です。
たしかに米国の11月の消費者物価上昇率は前年同月比6.8%となり、約39年ぶりの高水準に達しています。
とはいえ、現在の米国の物価上昇は、主として原油高、半導体の供給不足、あるいは港湾インフラ逼迫による物流の混乱等々に起因している、則ち「コストプッシュ型インフレ」とみるべきで、財政を引き締める局面には全くないと考えます。
イエレン財務長官もまた、インフレは2022年後半には落ち着くだろうと予想し「心配はしていない」と述べています。
我が日本においても11月の企業物価指数が前年同月比9.0%となり41年ぶりの高水準となっていますが、これはどうみても原油高や輸入物価高などに伴うコストプッシュ型の物価上昇です。
一方、日本のコアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合消費者物価)は前年同月比マイナス0.6%にまで落ち込んでおり、ほぼマイナスで推移しています。
ていうか、そもそも日本は米国ほどの財政支出の拡大をしていません。
そのため、コストプッシュ型インフレとデフレが同時進行しています。
であるからこそ、長期かつ大規模な財政支出の拡大が求められています。
今後必ず、インフレ率を理由にして財政支出の拡大に異を唱える政治家、評論家、学者、メディアらが現れます。
皆様、騙されないように注意しましょう。