懸念すべきは金利高騰ではなく、金利の低迷!

懸念すべきは金利高騰ではなく、金利の低迷!

財政破綻論者たちが殊更に不安材料として煽っているものの一つが「国債を増発すると長期金利が上昇し、やがて政府は利払い費を負担できなくなるぅ」です。

過日も驚いたのですが、ある住宅業者の営業サイト(HP)にまで次のような記載がありました。

「日本政府がマーケットに発行している国債の額はおよそ860兆円近くになり、毎年この発行した国債の利息の支払いだけで10兆円近くになります。これは言い換えると、日本という国家が国民に多額の借金をしているということと同じです」

おそらくはこの業者、財務省のHPに書いてあったことをそのままコピペでもしたのでしょう。

住宅業者が「在りもしない財政破綻論」を煽ることで、いったい何の利益があるのかよく解りませんが、顧客に対し「住宅ローンを組む際の参考にしてください」とでも言いたいのでしょうか。

だとすれば、この住宅業者は「政府が借金をするとお客様が借りる際の金利が高くなる。だから政府に借金させちゃぁ、ダメなんです!」と言っているに等しい。

住宅業者までもが営業サイトでこのような嘘情報を発信する時代ですから、ネット社会におけるデマの拡散というものが止め処も無いものであるのも実に頷けます。

さて、この住宅業者の言うデタラメさを一つひとつ潰していきたいと思います。

まず「日本政府がマーケットに発行している860兆円」というのが嘘です。

2021年度予算ベースでの政府の国債発行残高990兆円なのですが、政府が発行した国債の半分ちかくは既に日銀が保有しています。

どうやらこの住宅業者は日銀が量的緩和により国債を購入していることを知らないらしい。

ご承知のとおり、日銀が保有している国債については政府に返済の義務はありません。

親会社である日本政府の負債を、子会社である日銀が購入しているのですから連結決算で相殺されプラマイゼロなのでございます。

では、日銀が保有していない国債、則ちマーケットに発行している分の国債についてはどうか。

まず、元金の償還については基本的には借り換えです。

諸外国ではすべて、元金償還は永久的に「借り換え」です。

日本だけが例外で「60年償還ルール」などというものを設けて、60年かけて少しずつ税収で償還しています。

このことがいかに馬鹿げたことで、国民経済を圧迫しているのかを考えてほしい。

次いで、この住宅業者の言う「毎年、10兆円ちかくの利払い」についてですが、日本の国債利払い費は2021年度予算で約8.5兆円が計上されています。

これは長期金利を0.8%として算定されたものです。

ところが、実際の市場金利は0.045%なので、政府による実際の利払い費は8.5兆円よりもずっと少ない。

要するに、5000億円にも満たない。

百歩譲って仮に長期金利が今の10倍に跳ね上がったとしても、利払い費は8.5兆円の約半分程度にしかなりません。

因みに、その程度の利払い費の負担が、60兆円ぐらいある国税収入を上回る可能性を杞憂と言います。

そして、この住宅業者の最大の戯言は「日本政府が国民から借金をしている」と言っている点です。

当該ブログで何度も申し上げておりますように、政府による国債発行は国民(家計や企業)の預貯金に全く依存していません。

政府による国債発行の原資は、政府の子会社である日銀が創造する「日銀当座預金」です。

なので、政府が市場のおカネを吸い取って長期金利を高騰させてしまうことなどあり得ないのです。

そもそも「政府が国債を発行すると金利が上昇するぅ~」と主張されている人たちは、どこかにおカネを溜めるプールみたいなものがあるのだと誤解しています。

そのプールから政府がごっそりとおカネを借りていっちゃうから「家計や企業が借りるおカネが無くなっちゃう」という結論に至るのでしょう。

そんなプール、どこにもありません。

繰り返します。

長期金利の水準は、国債の発行制約にはなりません。

もしも長期金利がなにか突発時な要因で(まずあり得ないが…)急激に高騰した場合には、日銀が国債を購入することで金利をコントロールさせればいいだけです。

国債が円建てで発行されている以上、円を発行できる日銀はキーボードを叩くだけで国債をいくらでも購入できます。

では、長期金利が緩やかに上昇しはじめるのはどういうときか?

デフレが払拭され、景気が上向き経済が安定的に成長しはじめたときです。

現在のように長期金利が0.045%という低金利状態は、日本経済が異常な状態であることの証左です。

ゆえに今の日本経済は、金利の上昇が心配される状態なのではなく、金利の低迷が心配されるべき状態なのでございます。