現役の財務次官が総選挙を前に『文藝春秋』に「財政破綻論」を掲載したことには驚かされました。
何に驚いたのかと言えば、まず第一に学歴もキャリアもある人がこの程度の知識しかもっていなかったこと。
第二に、個人的見解としてではなく、現役の財務次官として掲載したこと。
第三に、それを衆議院総選挙前に掲載したこと。
次官というのは、省内官僚の最高位で、それ以上の出世はありません。
財務官僚のトップが明らかに選挙結果に影響を与えるために敢えて掲載したのだと私は思っています。
そもそも日本政府が財政破綻(デフォルト)に陥る可能性そのものがゼロ%なのですが、学歴もキャリアもあるいい大人が平然と嘘を書く。
自国通貨建てで国債を発行する政府が財政破綻(デフォルト)することは絶対にありません。
断言します。
その可能性はゼロ%です。
百歩譲って、仮に日本政府に財政破綻の可能性があるとして、なぜ政府財政を預かり国庫の管理を任された官僚のトップにある人が敢えて「日本国債の格付け」を下げるような行為に及ぶのか不思議でならない。
同じ嘘でも、彼の立場からしてみれば、むしろ「日本国債は大丈夫ですよ」と言うべきところではないでしょうか。
国家官僚としての愛国心すら無いのか。
破綻リスクゼロの会社の経理部長が「皆さん、うちの会社は破綻しそうでヤバいですよ」と言って回って歩いているようなものです。
その現役の財務次官とは矢野康治氏のことですが、彼が『文藝春秋』で言わんとしたことを簡潔にまとめると次のとおりです。
「現在、国の債務は地方と合わせて1,166兆円に上り、これはGDPの2.2倍にあたる。それなのに政治の世界ではバラマキ合戦の政治論が横行している。だからこのままでは国家財政は破綻する」
あらためて読むと、もう耳にタコができるほど聞かされてきた話(論)ですね。
さて、GDPには名目GDPと実質GDPの二種があります。
前者はGDPを金額そのもので集計した指標であり、後者は物価変動の影響を控除し国民生活が実質的にどれくらい豊かになったのか示す指標です。
物価がどれだけ変動しても、借金そのものの額は変わりませんので、負債残高と比較する場合には名目GDPを使うわけです。
1000万円の借金があったとしても、年収1000万円の人と年収500万円の人では深刻さの度合いが異なります。
同じように政府の負債についてもGDPに対してどれくらいの額かが問題にされ、日本政府の負債対GDP比は既に2.2倍ですから「それみろ、深刻ではないか」と矢野財務次官は言っているわけです。
なるほど家計を預かる多くの国民からしてみれば、矢野事務次官が言っているとおり「とてもじゃないが返済できるのか心配だ」と思ってしまうことでしょう。
とはいえ、日本政府の負債対GDP比が大きくなった理由ははっきりしています。
いつも言うように、分母である名目GDPがまったく増えていないだけです。
ここが諸外国と異なるところで、日本だけが抱える特殊な問題です。
要するに、名目GDPが増えない最大の理由は「バラマキ」とか「無駄遣い」とかではなく、総需要が不足するデフレ経済が続いているからです。
また別の言い方をすると、デフレ経済とはおカネ(貨幣)の価値が上昇し、物価が下落していく経済のこと。
おカネの価値が上昇していく経済において、借金して投資や消費をしようとする人は少ない。
逆に、おカネの価値が下落していく経済(インフレ経済)になると、人々はおカネを借りて投資や消費をしなければ損をすることになります。
ちなみに昨今、ガソリン価格等が上昇していますが、これらは輸入物価高騰などのコストプッシュ型のインフレであって、デフレ脱却によるインフレではありません。
そこで中央銀行たる日本銀行は、おカネの価値を下落させるため(インフレ率を2%にするため)に金融緩和を行っているわけです。
皆さんのお財布に入っているおカネ(お札)を見て頂くと、そこには「日本銀行券」と書いてあります。
そのお札が日本銀行の「負債」であり、所有しているあなたにとっての債権であることの証です。
要するに日本銀行は日銀券という「負債」を増やすために金融緩和を行っているのですが、残念ながらインフレ率はゼロ%のままでなかなか結果がでない。
それもそのはずで、日本銀行が金融緩和を行うだけでは世の中におカネの流通量は拡大しません。
おカネは、誰かが借りて使わなければ絶対に増えないのでございます。
誰かって誰?
むろん、日本政府です。
にもかかわらず、在りもしない「破綻論」を煽りに煽り、政府にカネを使わせないようとしないのが、現役の財務官僚を中心にした財政破綻論者たちなのです。