軍事のネットワーク化が進むなか、サイバー攻撃が軍の戦域の一つになっています。
我々の生活のほぼ全てにインターネットが利用されている現代、サイバー攻撃の攻防は陸海空エリアと同等、いやそれ以上に重視されるようになっています。
インターネット攻撃と聞くと、自宅のパソコンにウイルスが侵入したり、電話がつながりにくくなったりなど表面的な部分に注目しがちです。
むろん、パソコンのデータが消えてしまったり、スマホから個人情報が盗まれたりすれば、個人としては非常に大きな問題です。
しかしながら、国が組織として行うサイバー戦の本質はさらに大きな脅威を有しています。
現代の社会システムは、意識するかしないかは別にして日常生活のほとんどはネットワーク技術によって支えられています。
例えば企業の管理システムは民間のインターネット網を利用し、社員同士のやりとり、顧客のデータ管理、企業同士の契約や業務を担っています。
さらに発電システムを遠隔で管理したり、電力を適切に供給したり、水道やガス、そして何よりもインターネット自体もネットワーク技術によって支えられています。
一昔前、「電気が止まれば時代は縄文時代に逆戻り…」などと揶揄されていましたが、ネットワークインフラが構築された現在では、ネットワークの停止は電力だけでなく、ガス、水道、交通、食品など私たちの生活の最も根幹になる部分すべてが停止することを意味します。
そんなインターネットに関する攻防も国家規模の戦場の一つになっています。
サイバー戦力上、我が国にとって最も脅威となっている国は、むろん中国です。
2015年、中国はサイバー戦力を大幅にアップする方針を表明し、軍の大改革の一環として創設された戦略支援部隊のもとにサイバー戦部隊が編成されています。
その組織の規模は驚くほどに大きい。
戦略支援部隊の人数は17万5000人で、サイバー戦部隊が3万人です。
日本の陸上自衛隊の人数は15万人です。
海上自衛隊、航空自衛隊がそれぞれ5万人に弱ですので、中国は戦略支援部隊だけで全自衛隊ほどの兵力を投入し、サイバー空間だけの専門部隊だけで3万人もの人員を抱えているわけです。
サイバー空間に力をそそぐ中国は、常時、情報を狙ったサイバー攻撃を仕掛けています。
例えば2015年には、米国連邦人事管理局に不正アクセスをし、連邦職員や米軍人などおよそ2200万人分の個人情報を取得しています。
2018年には米海軍が契約する関連企業にハッキングし、潜水艦に搭載する極超音速巡航ミサイルに関する情報を入手したらしい。
同じく2018年、中国国家安全部と関連するサイバーグループ『APT10』が少なくとも12ヶ国に対して知的財産などを標的とするサイバー攻撃を実施しています。
我が日本もAPT10と思われる攻撃を受けているという。
あるいは北朝鮮も6800人規模のサイバー部隊を保有しており、日本が被害にあった仮想通貨取引所NEM流出事件に関与していると言われています。
因みに、2018年の1年間に発生した日本の政府機関のマルウェア感染の疑いが111件、目的型攻撃が66件確認されています。
中国、ロシア、北朝鮮など、他国のサイバー部隊による攻撃から我が国のネットワークを守るため、自衛隊はサイバー空間を戦域とする専門部隊「サイバー防衛隊」を保有していますが、その規模は桁違いに少ない。
2019年に増員されたものの、なんと220名体制です。
サイバー空間に漸く進出した日本ですが、とりわけ隣国中国との戦力差は歴然です。
防衛費をGDPの1%未満に抑えなければならないという桎梏があり、そのうえ1998年以来のデフレ経済によりGDPそのものが成長していないわけですから、他国による脅威が増しているなか、いかに日本の軍事費が少なすぎるかがお解り頂けるものと思います。