アメリカの政治学者であるグレアム・アリソン氏は覇権をめぐる戦争の歴史を調べ上げた結果、過去500年間で覇権戦争は16事例あり、うち12事例は武力衝突に至ったという。
地政学上、東アジアの安全保障環境は我が日本国にとってまさに死活問題であり、その東アジアの覇権をめぐって米中が対立しているのはご承知のとおりです。
冷戦崩壊以降、世界の覇権国として君臨してきた米国は、2003年のイラク戦争と2008年のリーマンショックにより、その軍事力と経済力を退潮させました。
一方、中国は2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟して以来、人海戦術のように使える安い労働人口と中共による専制支配の利点を活かして着実に経済を成長させ、その果実で軍事力を強化しました。
習近平国家主席は「中国は間違いなく国際社会の舞台中央に近づきつつある」と宣言しているほどです。
しかしなにより中国をWTOに加盟させ肥え太らせたのは、ほかでもない米国です。
この一点をもって米国の世界戦略の浅はかさを象徴していますが、もっと呑気だったのは中国に経済軍事面の急成長を許す一方で、2010年代の米国は新自由主義政策を維持し続け、こともあろうに軍事費を削減してきたのです。
結果、今や米国は東シナ海や南シナ海における中国の傍若無人な振る舞いを咎めることができず、一帯一路という中国の世界戦略を眺めるだけで、アフガニスタンではタリバンによる反米政権の樹立を許すに至っています。
中国による台湾侵攻が、もはや時間の問題となっているのも周知のとおりです。
とはいえ、米国以上に呑気だったのは我が日本国です。
急成長により中国が経済面、軍事面で脅威となっていったなか、なんと我が国では「日本は国の借金で破綻するぅ〜」というデマに踊らされた為政者たちが「抜本的な構造改革が必要だぁ」と叫んで、緊縮財政、規制緩和、自由貿易路線というグローバリズム(=新自由主義)政策に突き進み、国力をさらに減退させたのです。
加えて戦後日本には「防衛費をGDPの1%に留めなければならない」という意味不明な制約があります。
近年では自衛隊施設のトイレットペーパーの予算さえつかず、自衛隊たちが私費で購入している有様です。
米国のワシントンDCにCSBA(戦略予算評価センター)という国防問題を中心に扱っている調査研究機関があるのですが、そこの上級研究員のトシ・ヨシハラ博士は「過去10年間で中国海軍は艦隊の規模、総トン数、火力等で海上自衛隊を凌駕した」「もしも中国が尖閣諸島に軍事侵攻を仕掛けた場合、日米両国で対応しても尖閣を守りきれるかどうかわからない」と分析しています。
どうしてこんなことになってしまったのか。
くりかえしますが、日本はこの20年間「抜本的構造改革」の名のもとに国民経済を守るための諸規制を緩和撤廃し、TPPをはじめとする自由貿易を推進するなど新自由主義政策に邁進してきました。
なによりも財政健全化を理由に防衛費を抑制し続けてきたツケは大きい。
残念ながら、こうした抜本的構造改革を支持してきたのは日本国民です。
信じ難いことに日本維新の会などは、さらなる抜本的構造改革を主張しています。
その日本維新の会が先日の総選挙でも議席を増やしているわけですから、なんともし難い。