先日、閣議決定された経済対策の裏付けとなる補正予算が組まれます。
報道によれば、補正予算で発行される新規国債は22.1兆円になる見込みのようです。
日本経済新聞は例によって「国債の大量増発は避けられない。財政悪化に歯止めがかからず、中長期的な財政再建に向け、政府の説明責任が問われる」という、いかにも大げさな記事を書いています。
私に言わせれば「たったの22.1兆円ですか!」
この危機のなか、今年度(令和3年度)は未だに一度も補正予算が組まれていません。
あの緊縮内閣の菅政権でさえ、昨年度(令和2年度)は第3次まで補正予算を組みました。
その国債発行額を予算ベースでみますと、本予算で32.5兆円、第1次補正予算で25.6兆円、第2次補正予算で31.9兆円、第3次補正予算で22.3兆円で、合計112.6兆円の新規国債(建設国債+赤字国債)を発行しています。
今年度は本予算で43兆円の新規国債を発行しているだけで、このたびの補正予算と合わせても65.1兆円です。
この規模ですと、年明けに第2次補正予算を再び組まなければいけないと思います。
できるかぎり国債発行額を抑制したい財務省としては、何度も小分けにして補正予算を組むことで「国民の皆さん、政府はまた国債を増発したんですよぅ〜」と喧伝したいのでしょう。
そして日本経済新聞などメディアをつかって「このままでは将来不安がぁ…」などの記事を書かせ、財政再建化に向けた世論を形成しようとしているのではないでしょうか。
現に、そうしたメディア戦略にまんまと嵌ってしまう国民が「バラマキはよくない…」みたいに言って、新橋駅前の街頭インタビューにほろ酔い顔で応じています。
結局、多くの政治家、官僚、メディア、学者、有権者たちが、「デフレ」と「通貨」の意味を正しく把握できていないことが大問題です。
何度でも言いますが、デフレとは総需要(消費と投資)が不足する経済のことです。
消費の減少は今を生きる人たちの貧困化であり、投資の減少は未来を生きる人たちの貧困化です。
ひいては日本国そのものの貧困化です。
デフレ経済下では、貨幣(おカネ)の価値が商品価値に対して上昇していきます。
日に日におカネの価値が上昇していくのですから、人々はできるだけおカネを使わずに貯めたほうが得になります。
だから消費や投資が減少するわけです。
デフレを脱却するには、この流れを反転させることが必要です。
つまり、世に流通するおカネ(通貨)の量を増やして価値を下げることができればいいのですが、今の為政者たちは「通貨」の意味も解っていないから正しい処方箋を示すことができない。
例えば、日銀が市中銀行の持つ国債を購入して「日銀当座預金(市中銀行が日銀にもつ預金口座)」を増やせば世に流通するおカネ(通貨量)を増やすことができる、というリフレ派理論は既に完全に破綻しています。
日銀当座預金を増やしても通貨量は増えません。
そのことは、この9年間の日銀の政策が証明しています。
さて、通貨には現金通貨と預金通貨(銀行預金など)があります。
現金通貨を発行するのは日銀ですが、預金通貨を発行するのは銀行などの民間金融機関です。
そして世に流通している通貨のほとんどが実は預金通貨です。
現金通貨は100兆円程度にすぎません。
なお、千円札や一万円等の現金通貨をよくみますと必ず「日銀券」と刻まれていますが、これはそのお札が日銀の「負債」(保有している人にとっては債権)であることを示しています。
一方の預金通貨については、ここがポイントですが、銀行は借り手に返済能力があるかぎり「無」から預金を創出することができます。
例えばAさんが〇〇銀行に行って「100万円を貸してください」とお願いした場合、Aさんの返済能力さえ確認されれば〇〇銀行はAさんの預金通帳に「100万円」と記帳してくれます。
この100万円は、〇〇銀行が無から創出したものです。
多くの人が誤解しておられますが、銀行はかき集めてきた預金を又貸ししているわけでありません。
ゆえに、こうした銀行による新たな融資(預金発行)もまた、通貨(預金通貨)の発行になるわけです。
このとき、銀行のバランスシート(貸借対照表)では、銀行預金は「負債」に計上されているのをご存知でしょうか。
即ち、預金通貨もまた現金通貨と同じように「負債」なのです。
もうお解りでしょうか?
デフレ経済とは、総需要が不足する経済であるとともに、世に流通する通貨(アクティブマネーとも言う)が不足する経済のことです。
ということは、デフレで苦しむ現在の日本に足りないのは「通貨=負債(赤字)」なのでございます。
デフレ期に赤字を拡大できる国内の経済主体は政府のみです。
にもかかわらず我が国では、その政府が赤字縮小を目指しています。
なお、変動為替相場制を採用し自国通貨建てで国債を発行している日本政府に財政破綻(デフォルト)などあり得ません。