石油の国家備蓄

石油の国家備蓄

我が国が大東亜戦争に突入するに至った原因について、戦後、昭和天皇がお言葉を述べられたことがあります。

陛下はその原因を「遠因」と「近因」の二つに分けられ、「遠因には人種問題があった一方、近因は石油だった」とのことです。

なるほど、子供のころに学校で習った「幕末、欧米列強が日本に開国を求めた…」という際の欧米列強とは、要するに「白人による列強国」のことです。

日本としては開国なんてしたくはなかったけれど、白人様たちから「開国しないと植民地にするぞ!」と脅され、しぶしぶ開国し、植民地にされないように努力した結果、日本はわずか50年で近代国家をつくりあげることに成功し、独立国家として白人列強と肩を並べるに至りました。

史上、日本は有色人種で近代国家をつくった唯一の国です。

白人列強は日本に対して「開国しろ…」と迫ったものの、今度は有色人種のくせして近代国家をつくりあげ自分たちと肩を並べて世界に君臨しはじめた日本人が許せなかった。

それが白人国家による排日政策につながったことは言うまでもありません。

まず1920年に、米国のカリフォルニア州で「排日土地法」が成立します。

これは日本移民の土地取得に制限を加えたそれまでの決まりに加え、米国籍をもつ二世、三世の名前で土地を取得することや、米国生まれの自分の子供の後見人になることなどを禁じた悪質な法律です。

同様の法律が、次々と他の州でも成立していきました。

1922年には、米国の最高裁が「白人とアフリカ土着人およびその子孫だけが米国に帰化できるが、日本人はダメ」という判決を下しています。

即ち黄色人種であると帰化権がないとされ、さらに悪質だったのは、その時点で米国国民として暮らしている移民の帰化権まで剥奪しています。

そうした排日移民政策の集大成が、1924(大正13)年に成立した『絶対的排日移民法』です。

この法律はそれまでとは異なり、連邦法です。

帰化権のみならず、農地の所有権も借用権も認めないなど、日本人移民にとっては絶望的な法律でした。

こうした歴史を知らないと、戦前における日本人の対米感情を理解することができない。

次いで米国は経済面でも日本を締め上げていきます。

1939年7月、米国は「日米通商航海条約」の破棄を一方的に通告してきました。

翌年7月には、対日石油・鉄くず輸出の許可制への移行を発表し、航空用ガソリンを禁輸します。

結局、その2ヶ月後には鉄くずを禁輸しています。

真珠湾攻撃の5ヶ月前には、米国は在米日本資産を凍結し、英国も米国に歩調を合わせて英国全領日本資産を凍結して「日英通商航海条約」も破棄、オランダも蘭印日本資産を凍結しました。

いわゆるABCD包囲網です。

そして8月、ついに石油が止められたわけです。

ご承知のとおり、当時から日本には近代国家を運営するために必要な資源がありません。

その多くを海外に依存しています。

白人列強は日本に「近代国家になれ…」と言っておきながら、近代産業に必要な資源を日本に入らないようにしたわけです。

戦後、米国議会に招聘されたマッカーサーは、日本が戦争に踏み切った理由について次のように証言しています。

「日本は絹産業以外には、固有の天然資源はほとんど何もない。彼らは綿も羊毛も石油も、錫もゴムも、そのほか、実に多くの原料が欠如している。そして、それらすべて一切がアジアの海域には存在していたのです。もし、これらの原料の供給が絶たれたら、日本国内で1000万人から1200万人の失業者が出ていたでしょう。日本人は、これを恐れていました。したがって、日本が戦争に突き進んでいった動機は、大部分が安全保障の必要性に迫られてのことだったのです」

そうです。

日本は、安全保障の必要性から戦争に追い込まれたのです。

マッカーサーが言っているように1000万から1200万人の失業者が出ていたらどうなっていたでしょうか。

現在、コロナ禍による失業者が200万人にまで及んでいますが、なんとその5倍から6倍の失業者が発生する寸前だったのですから、いかに当時の日本が深刻な状況に追い込まれていたのかが解かります。

そのことは、さすがに戦後生まれの私たちでも想像に難くない。

といって、当時の日本はすぐに戦争に訴えたわけではありません。

戦争を回避するために、粘り強く米国との外交交渉を重ねています。

といっても、はなっから米国には「交渉をまとめる」気などさらさらありませんでした。

日本との外交交渉を長引かせつつ、米国は軍事力を強化し戦争準備をしていたのです。

何よりも彼らが交渉を長引かせたかったのは、戦争前に日本の石油備蓄を少しでも減らしておくためです。

当時(真珠湾攻撃の2ヶ月前)の日本は、24ヶ月分の石油備蓄しかありませんでした。

世界最先端とはいえ、ゼロ戦も戦艦もすべて石油がなければ動かない。

つまり戦争に至らずとも、石油の備蓄が減れば減るほど日本の外交交渉力は弱体化していくわけです。

昭和天皇が戦争に至った遠因を人種問題、近因を石油問題とされたのはこうした歴史的事実があってのことです。

さて現在、原油価格が高騰しています。

そうした中、政府は米国様の要請を受けて国内にある石油の国家備蓄の余剰分を市場に放出するそうです。

米国様の要請を受けて…

因みに、現在の日本の国家備蓄量はいかほどかご存知でしょうか?

145日分(約2ヶ月半)です。

IEA(国際エネルギー機関)は加盟国に輸入量の133日分の国家備蓄(IEA基準)を求めているからでしょうが、国際政治の不確実性が高まっている今、少し呑気過ぎやしないか。