言うまでもなく、日本経済の現状は深刻な状況です。
先日、内閣府から発表されたGDP速報値をみても、GDP伸び率は年率換算でマイナスの3.0%となり市場予測を大幅に下回りました。
とりわけ、マイナスに寄与したのが輸出(▲2.1%)と個人消費(▲1.1%)でした。
輸出については、半導体不足や東南アジアでの感染拡大によって部品の調達が困難となったために自動車などが製造できないなど大きなダメージを受けています。
個人消費の落ち込みについては、むろん緊急事態宣言で飲食や旅行などのサービス産業が低迷したこともありますが、もともと消費税増税の影響もあって消費需要は基調として弱い状態が続いています。
さらに今後とも原油高や円安による原材料費など輸入品の価格上昇により、一層の企業収益の悪化と消費の落ち込みが懸念されます。
そうしたなか昨日、岸田政権が経済対策を発表されました。
地方自治体の支出や財政投融資を含めた政府の財出規模が50兆円を超えたことで、メディアは例によって「50兆円を超えたぁ〜」だの、「過去最高だぁ〜」だのと財政不安を煽っています。
しかしながら、冒頭に掲載した表をご覧頂くとお解りのように、今回の経済対策が安倍・菅政権時代のショボかった経済対策と比べてもそんなに差がないことが解かります。(因みに、リーマン・ショック時の経済対策がいかにショボかったかも確認できます)
その中身をみますと、次のような塩梅です。
所得制限を設けた上で18歳以下を対象に一人あたり10万円相当を給付するほか、住民税が非課税の世帯に対して一世帯あたり10万円の現金給付を行う。
また、売上が大きく減った中小企業などに最大で250万円を支給する給付金制度や、GoToキャンペーン事業の再開にむけた準備を整えることなどが盛り込まれています。
このほか対策には、ガソリン価格高騰への対応策として、政府が石油元売り会社に資金を補填してガソリンや灯油の卸売価格を引き下げるなどの対策がとられるようです。
当面は感染拡大を抑えながら、経済を成長軌道に乗せていくのかが課題になります。
そこで岸田内閣は成長戦略として…
①2050年カーボンニュートラルの実用化のため、再生可能エネルギーの普及に必要な蓄電池や送電網への投資すること
②自動車の電動化を推進すること
③デジタル田園都市国家構想の名のもとにテレワークを普及すること
④過疎地での自動配送ロボットの実用化を目指すこと
⑤10兆円規模の大学ファンドを設置すること
…等々を掲げていますが、詰まるところ、従来の成長戦略と何ら代わり映えがしない。
例えば、どうして「大学ファンド」なのでしょうか。
ふつうに政府が財政支出を拡大して教育予算(大学予算)を増やせばいいだけの話だと思うのですが、結局は新自由主義的な発想にとらわれているわけです。
さて、岸田首相は当初、「分配なくして成長なし」を強調していましたが、今では経済政策の路線を「成長なくして分配なし」へと切り替えつつあるという見方も出ています。
分配が先か、成長が先か。
この視点は極めて重要です。
例えば、小泉内閣や安倍内閣は典型的な新自由主義政策を進めましたが、その結果、一部の企業や富裕層を潤すことには成功したものの、残念ながら低所得層の所得拡大(分厚い中間層の構築)、実質賃金の上昇には全くつながりませんでした。
どうしてでしょうか?
その理由はこうです。
まず一般的には、富裕層(高所得者)は消費の絶対額が大きくとも、所得全体に占める消費の割合は小さい。
一方、低所得者は所得全体に占める消費の割合が高い。
つまり高所得者の方が、所得の増分を消費より貯蓄に回してしまう可能性が高いわけです。
このため、一部の富裕層のみが社会全体の所得を独占しているような格差社会では、消費需要は相対的に小さくなってしまうわけです。
ご承知のとおり、GDPの約6割を個人消費(消費需要)が占めています。
即ち、低所得者への分配を厚くしたほうが消費需要を刺激するわけですから、より経済成長に寄与するわけです。
ゆえに「分配」という格差是正こそが「成長」を促進すると言っていい。
加えて、新自由主義的政策がもたらした格差社会は、教育という人材投資にも悪影響を与え経済成長を阻害しています。
長期的に経済を成長させるためには、教育投資(人材投資)によって供給能力を担う国民(人的資本)のスキルを高めていく必要があります。
しかしながら低所得層は、高所得層に比べその所得を充分に教育に充てることが難しい。
このため、低所得者の割合が高い格差社会では、教育投資が不足せざるを得ない。
結果として新自由主義がもたらす「格差社会」では、長期的な成長が困難になるのも当然です。
この意味からも、分配による格差の是正こそが長期的な経済成長を実現すると言えるわけです。
詰まるところ、新自由主義型の「成長なくして分配なし…」という政策では、経済を成長させることも格差を是正することも不可能なのです。
「成長なくして分配なし…」というのは一見ごもっともそうなスローガンなのですが、ここに経済政策の落とし穴があります。