中国では11日まで共産党の重要会議である「中央委員会第6回全体会議」(以下、6中全会)が開催され、かつて毛沢東や鄧小平が権力基盤を固めるために使ったともいえる「歴史決議」が40年ぶりに採択されました。
習近平国家主席はその歴史決議で党内での自らの権威を一層高めたという。
歴史決議とは、過去を総括することで時の指導者が自らの進めたい方向性を権威付けするものだともいえます。
これまで採択された歴史決議は、中国で別格だ、という位置づけの毛沢東と鄧小平が主導した2回だけで大きな意味があるという。
一回目は1945年に毛沢東が対立勢力を否定するために主導して採択した歴史決議であり、二回目は1981年に鄧小平が文化大革命を否定するために主導して採択したものです。
いずれも過去を否定することで、主導した指導者の正当性を示して権力基盤が固められています。
習近平国家主席は、来年の共産党大会で党のトップを続投し異例の3期目を目指すと言われています。
68歳以上で最高指導部引退という慣例を破るかたちで続投を目指す習近平国家主席としては、党内で大きな意味のある歴史決議をもちだすことで自らの権威を高め党内の異論を封じようという狙いがあったのでしょう。
今回の歴史決議の全文は現在の段階では未だ明らかになっていませんが、会議のあとに発表された党規の内容をまとめたコミュニケはその概要を示したものと思われます。
そのコミュニケをみると、会議では習近平国家主席が「党100年の奮闘の重大成果と歴史経験に関する決議」という今回の歴史決議の草案を説明したとのことです。
また会議では毛沢東や鄧小平に加え、江沢民元国家主席、胡錦濤前国家主席、それに習近平国家主席の合わせて5人の名前をあげ、それぞれ治世を肯定的に捉えるかたちで振り返りました。
このうち毛沢東の時代については「中華人民共和国が成立し民族の独立を実現した…」との成果を強調しています。
次いで改革開放政策を進めた鄧小平時代、そしてそれを受け継いだ江沢民氏、胡錦濤氏のそれぞれの時代についても「偉大な飛躍を推進して中華民族を豊かにした」などと評価しています。
さらに自分(習近平)の時代については「偉大な歴史精神と勇気をもち、長いあいだ解決したくてもできなかった難題を解決してきた」などと最も多くの分量を割いて振り返った。
因みに、この地球上に中華民族などという民族は存在しませんが…
とにかく5人の指導者のそれぞれの治世を称えるかたちで総括する一方、文化大革命や天安門事件など党の威信に傷がつくようなことには触れていません。
おそらくは党内勢力のバランスに配慮し、党内をまとめようとした結果かと思われます。
実際はともかく、3回目の歴史決議が採択されたことで、一応は習近平国家主席の権威は毛沢東や鄧小平に並んだという位置づけになるのでしょうから、来年の党大会にむけ習近平国家主席は足場を固めたことになります。
権力基盤を盤石にしているとはいえ、急速に進んでいる少子高齢化や経済の減速など直面する課題も山積しています。
いま北京(習近平指導部)が国内で最も深刻な課題と捉えているのが経済格差の拡大です。
いまや上位1%の富裕層が3割以上の富を独占しているとも指摘され、人民の不満が中共に向かいかねないと危機感を抱いているようです。
そうしたなか北京がこの夏以降、大々的にアピールしているのが皆が豊かになるという「共同富裕」です。
歴史決議を採択した今回の会議でも取り上げられました。
共同富裕はもともと毛沢東が唱えたもので、中国が社会主義国家として発展する方向を示した重要なものとされています。
習近平指導部は、この共同富裕に基づいて豊かになった人や企業からの寄付を強く求めているという。
国家が人民に寄付を求めるというのも滑稽です。
彼の国の税制や社会保障制度の整備が不十分で、当局による富の再分配が充分に機能していないことの現れです。
おそらくは党の高官といった既得権益者たちの反対でなかなかその種の整備が進まないのでしょう。
とはいえ、制度として曖昧な「寄付の強制」で果たして格差是正ができるのか、と疑問視する指摘もあるようです。
なお今年9月からの新学期を前に、北京政府は学習塾の非営利組織化という厳しい規制を打ち出していますが、これはおそらく加熱する受験競争により「教育費の負担が重すぎる…」という人民の不満を和らげる狙いがあったものと推察します。
格差の拡大を放置し続けると、やがて革命のエネルギーとなりかねません。
ゆえに習近平国家主席にとって共同富裕は最も優先されるべき国内政策なのだと思います。
常に「革命」に怯えなければならないのは独裁者の宿命です。