集団安保と国連軍地位協定

集団安保と国連軍地位協定

去る9月4日、イギリス海軍の最新空母「クイーン・エリザベス」が横須賀の米国海軍横須賀基地に、11月5日にはドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」が東京港にそれぞれ入港しました。

こうした各国軍隊の昨今の動きは言うなれば「国際安全保障」即ち「集団安全保障」と呼ばれるもので、集団的自衛権の発動とは無関係なものです。

東京外語大学の篠田教授もこれを「パートナーシップ平和構築(安全保障)」と呼んでおり、やはり集団安保の一環であると主張されています。

要するに、何処か侵略を受けた国から助けを求められ、それに応じて集団的自衛権を発動した、ということではなく、世界平和のために各国がそれぞれの仲間と組んで姿勢を示し(デモンストレーション)、経済・外交によって「世界の平和即ち互いの平和を目指そう」というものです。

日英、日独間には軍事同盟はなく、また正規の国連軍という組織は現在実存していませんので、無論国連軍ではありませんが、これはやはり「集団安全保障の一環としての国際協力」というべきものです。

最近の集団安保の傾向として、必ずしも「米軍中心の有志連合軍」とは限らず、例えば「クワッド」(日・米・豪・印)や「オーカス」(米・英・豪)のように、それぞれの特質を持ったグループが今後は互いにネットを組み合わせていくケースが増えていくのではないかと予測されます。

今後我が国はこれらの流れに沿って国際協調路線を進めることになると思われますが、この流れの本質は「一国または二国を守ることではなく世界の協調と平和を守ることだ」という集団安全保障の考え方に在りますので、これまでのような「日本一国平和主義」も「専守防衛路線」も通用しないことを私たち日本国民が理解する必要があります。

とりわけ「自衛隊を一兵たりとも海外に出してはならない…」みたいな考え方は、国際社会からの理解を得ることはできない現実を知るべきです。

さて、英海軍のクイーン・エリザベス号が横須賀港に入り、ドイツ海軍のバイエルンが東京港に入った理由についてですが、まずクイーン・エリザベス号が入港した横須賀港というのは「米海軍横須賀基地」のことに違いなく、ドイツ艦艇のバイエルンが入港した東京港は基地ではありません。

少し説明が必要になります。

朝鮮戦争に参戦した英国は「国連軍地位協定」の調印国です。

その証拠に在日英国大使館所属の英海軍武官の一人が国連側合同会議委員になっています。

一方、ドイツは朝鮮戦争には参加しておらず「国連軍地位協定」に調印しておりませんので、米軍基地を使用することはできません。

なのでドイツ艦艇であるバイエルンは東京港に接岸したわけです。

おそらく東京港に入港したドイツ海軍は港湾使用料を東京港の組合に支払い、横須賀基地に入港した英国艦艇の基地使用料は無料だと思われます。

意外と知られていませんが、戦後、米軍に接収された横須賀基地は「国連軍基地」を兼ねています。

要するに、英国艦艇クイーン・エリザベスは、国連軍地位協定の調印国として横須賀の国連軍基地に入港しているわけです。

英国艦艇のみならず、国連軍地位協定調印国であるオーストラリアやタイなどの海軍艦艇もまた、横須賀米海軍基地(国連軍基地)に寄港するときには必ず国連旗を掲げて入港しています。

さきほど私は「正規の国連軍は実存していませんので…」と述べましたが、誤解を招くといけませんので以下のとおり補足しておきたいと思います。

それは「大部隊として日頃から常在し、いつ戦闘があっても即時に対応できるような大部隊訓練を継続している」というものではない、という意味にすぎず、現実にソウル龍山米軍基地内に国連軍司令部が置かれ、その司令官は米第2軍司令官が米韓連合軍有事司令官と在韓米軍司令官との計4つの帽子を被って勤務しています。

そして米韓連合軍司令部の米人幕僚が国連軍幕僚を兼ねています。

要するに、明日にでも戦える大部隊としてではなく、一定の時間内には大部隊を編成できる骨格として、今なお朝鮮国連軍は健在であるということです。

なお、ニューヨークの国連本部には朝鮮国連軍の連絡所があり、そこに我が国の陸自隊員が連絡幹部として常駐している事実もぜひ日本国民は知るべきです。

集団安保への参加は責務であって義務ではなく、私たちは自国のことのみに専念してはならないのです。